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サッカー日本代表が勝利するために
先日、FIFAワールドカップ2026の組み合わせ抽選会が、現地時間 12月 5日にワシントンDCで実施され、サッカー日本代表のグループが決定しました。日本は強豪国が集まるグループFに入り、オランダ代表、チュニジア代表、そして欧州プレーオフBの勝者チームと同じ組で戦うことが決まりました。今大会は、史上初めて米国、カナダ、メキシコの3カ国共同で開催される大規模なイベントとなります。日本代表のグループFにおける試合は、米国のダラスと、メキシコのモンテレイで行われる予定です。これは、従来のワールドカップとは一線を画す大会であり、サッカーという競技のパフォーマンスだけでなく、この広大な大陸をどう効率的に移動し、選手の体調を万全に管理するかのオペレーション能力が、今大会の成績を左右する最大のカギとなるでしょう。

米国でのワールドカップ開催は、1994 年の大会以来となります。当時のF I F A ワールドカップ1 9 9 4 で記録された総観客動員数358万7538人は、現在でも破られていない歴代最高記録であり、大規模なアメリカンフットボール用のスタジアムが使用されたことで達成されました。今回、再び米国開催となることで、この記録が更新される可能性が高いと言われています。 94 年当時、米国はまだサッカー専用のプロリーグがなく、「サッカー不毛の地」と呼ばれていました。しかし、大会後にメジャーリーグサッカー(MLS)が創設され、国内のサッカー環境は劇的に変化しました。現在、MLSの平均観客動員数は2万人を超え、米国の4大メジャースポーツ(NFL、MLB、NHL、NBA)のうち、NHLやNBAに迫る規模に成長しており、文字通りメジャースポーツの座に食い込んでいる状況です。さらに、デジタルの拡大によって、世界のあらゆるプロサッカーの試合を日常的に目にすることができるようになり、米国内のサッカー熱は劇的に高まりました。生まれたときから自国にプロサッカーリーグが存在する米国では、若者の間でサッカーが最も人気のあるスポーツの一つとも言われるようになっています。この成長と人気拡大という強烈な追い風を受ける今回のワールドカップの盛り上がりは、今までにないほど大きなものになると予想されます。
日本代表がグループリーグの初戦と第3戦を行うダラスは、比較的有利なスタート地点と考えることができます。テキサス州のダラスには、日本人駐在員や日系企業も多く、地元在住の日本人コミュニティー、そして日本から駆けつけるサポーターの両方から大きなサポートを受けられる「地の利」があるはずです。食材なども比較的容易に手に入りやすく、食事面でのストレス軽減にもつながるでしょう。ただし、夏のダラスの気候は過酷です。6月から9月にかけて暑い季節が続き、特に8月は平均最高気温が 35 度(摂氏)に達し、湿度も高いため非常に蒸し暑いという特徴があります。しかし、これは対戦相手にとっても同条件であり、日本代表だけが不利になるわけではありません。重要なのは、グループリーグを勝ち進んだ後に、上述したような移動と体調管理のオペレーションをいかに上手に遂行できるかです。この点がトーナメント戦を勝ち抜く大きなカギとなるでしょう。
北米の広大さと移動の過酷さは、MLSの運営を見ればよくわかります。MLSでは基本的に東地区と西地区に分けてリーグ戦を行っていますが、シーズン中には東西に遠征することがあり、飛行機の片道移動だけで5〜6時間かかることは珍しくありません。さらに、同じ国内にハワイを含めると4つの時差が存在するため、MLSは「世界で最もアウェー戦に行くのが大変なサッカーリーグ」の一つと言われています。米国代表の選手たちも、欧州のビッグクラブでプレーする「欧州組」が多いため、全員がMLSの過酷な移動に慣れているとは言い難い状況です。しかし、少なくとも米国内での移動の勝手や地理的な感覚に慣れていることは、米国代表にとっては小さな有利な点といえるでしょう。
サッカー日本代表の実力は、近年のワールドカップの成績やアジアでの地位を見ても疑いようがなく、歴史上最強と言っても過言ではない、高いレベルにあります。しかし、今回のワールドカップは、単にサッカーの技術や戦術をぶつけ合うだけの戦いではありません。地理、気候、移動距離、時差、そしてそれを乗り越えるマネジメント力といった、複合的な要素が結果を大きく左右する稀有な大会になることを理解し、その対策を徹底することが、日本が史上最高の成績を収めるための重要な一歩となるはずです。
中村武彦
青山学院大学法学部卒業後、NECに 入社。 マサチューセッツ州立大学アマースト校スポーツマネジメント修士課程修了。メジャーリーグサッカー(MLS)、FCバルセロナなどの国際部を経て、スペインISDE法科学院修了。FIFAマッチエージェント資格取得。2015年にBLUE UNITED CORPORATIONを設立。東京大学社会戦略工学部共同研究員や、青山学院大学地球社会共生学部非常勤講師なども務める。



