MLBの現場より

前田健太投手、日本球界へーその決断を応援したい

野球の本場・米国で活躍する日本人メジャーリーガー。取材現場で感じた選手の“今”の思いや状況を深掘りするコラム。


マエケンこと前田健太投手(37)が来季、2026年は日本球界のオファーに限って移籍先を探す希望を明かした。今季は海を渡って10年目。メジャーでの挑戦を終え、日本プロ野球(NPB)であと35勝の日米通算200勝(MLB68勝、広島カープ97勝)を目指す。

9月3日ウースター戦で先発する前田健太

「もう米国には残りません。来年は帰ります。これはどういう状況であっても。マイナーに落ちたから、日本に帰る、ということでは全くないです。家族には以前から、来年帰る、と言っていました」

前田のMLBキャリアを振り返る。2016年にドジャースと当時の日本選手としては最長となる8年契約を結んだ(現在は山本由伸が結んだドジャースとの12年契約)。5年目を迎える20年にツインズにトレード移籍。ドジャースとの契約では先発登板数に応じて、出来高がつく契約になっていたため、シーズン終盤には中継ぎ起用されることが多くなっていた。ツインズはマエケンの先発としての能力を高く評価し、トレードが成立した。ツインズ1年目はコロナ禍で60試合の短縮シーズン。11試合で6勝1敗、防御率2・70の好成績を挙げた。ア・リーグのサイヤング賞投票では2位。ポストシーズン開幕となる9月29日、ワイルドカード・シリーズでは第1戦の先発を任された。21年に右肘の靱帯を再建する手術、通称トミージョン手術を受け22年はリハビリのため全休。23年に復帰した。24年にタイガースと2年2400万ドル(当時の為替レートで35億円)の契約を結んでいた。

「はじめの8年契約が終わったら、日本に帰ろうと考えていたんです。でも代理人から『必ずいい契約が取れる』と背中を押されました。僕自身、初めてのFA(フリーエージェント)だったので、その経験をしてみたい気持ちもありました」

タイガース2年目の今季、5月はじめに事実上の戦力外となるDFA(メジャー出場の前提となる40人枠から外される措置)を受けた。5月中旬にカブスとマイナー契約を結び、その後は契約内容に付帯する契約の途中破棄条項(オプトアウトの権利)を行使して、8月はじめにヤンキースとマイナー契約を結んだ。カブスよりヤンキースの方が戦力状況から、メジャー昇格の可能性が1%でも高いだろう、と見込んでの判断だった。

キャリアを積んで得られた自信

この2年、不調の原因だった直球の質は改善。体を縦に使うフォームに修正した。右肘の手術後、最速となる94・4マイル(152キロ)までスピードが戻った。9月3日、レッドソックス傘下3Aウースター戦では、8回2アウトまでノーヒットノーランの好投(1本塁打で1失点)。「本来の自分の投球をもう一度、取り戻したい」。タイガースを退団した後には、2026年を見据え、再生と復活へ努力を続けた。「本来のマエケン」らしいピッチングが戻りつつある。

実は、前田は8月末にニューヨークに滞在していた。ヤンキース3Aの本拠地、ペンシルベニア州スクラントンから、遠征地のボストン近郊のウースターに向かう途中、ニューヨークに立ち寄った。日曜日のデーゲームが終わるマンハッタンに向かい、ディナーは日本食レストランで取り、英気を養った。翌朝にはセントラルパークで自主トレを行い、自らの運転で次の目的地に向かった。

2016年9月、ドジャース時代の前田健太を単独インタビューする様子

前田がドジャースと契約を結んだときは、27歳。短髪&茶髪の若者だった。10年が経過し、髪の毛とヒゲには少し、白髪も混ざるようになった。メジャー1年目。私は「ドジャースの8年契約が終わる頃は、35歳ですね。どんな姿を想像しますか?」と聞いた。「野球選手としては35歳は〝オジサン〟ですね」と笑った。実際、前田は18歳でプロ入りした当初、広島カープの先輩たちをみて「うわっ、オッサンばっかりや」と思ったそうだ。自分がその年齢になった。しかし、自信のあることがある。

「僕、日本にいたときよりも絶対に今の方がいいピッチャーです。成長していると思います。実際、フォーシーム(直球)はカープのときより今の方が平均球速は速いはずです」

日本球界復帰を決めたが、残り少ない米国生活でメジャー昇格を諦めたわけではない。負傷離脱者が出るなどの条件なら、ポストシーズンでの出場資格がある。伝統のピンストライプを着たマエケンをニューヨークでみられることを願っている。


山田結軌

1983年3月、新潟県生まれ。2007年にサンケイスポーツに入社し、阪神、広島、楽天などの担当を経て16年2月からMLB担当。25年3月より、独立。メジャーリーグ公式サイト『MLB.COM』で日本語コンテンツ制作の担当をしながら、『サンスポ』『J SPORTS』『Number』など各種媒体に寄稿。ニューヨーク・クイーンズ区在住。

               

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