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在米日本人の健康と医療をサポートする「FLAT・ふらっと」がお届けする連載。アメリカで健康な生活を送るために役立つ情報を発信します。
婦人科がん治療は主に手術、化学療法(抗がん剤や分子標的薬)、放射線療法、免疫チェックポイント阻害剤の四つで、単独もしくは併用して行われます。手術にも化学療法にもさまざまな種類がありますが、本稿では治療法がどのように決定されるのかを大まかに説明します。
患者さんの全身状態と治療希望
治療選択は、できるかぎり安全で効果があると根拠づけられた治療法を医師が提案し、患者さんが希望することから始まります。適切な治療法を選べるか心配になるかもしれませんが、長年の経験がまとめられたガイドライン(標準治療)があり、医師も患者さんもそれを参考にして決定します。多くの場合、適切な初回治療は一つに決まっているか、二つか三つの同等の治療から選びます。混乱するほど多くの選択肢があることはまれです。
がんの由来はどの臓器か
名前は似ていても子宮体がんと子宮頸がんの治療戦略は全く異なりますし、当然ながら卵巣がんと胃がんの治療も異なります。がんの由来臓器を明確にすることは、治療に向けた重要な第一歩です。
複数の臓器に進展したがんでは、由来がわかりにくいことがあります。例えば胃がんや大腸がんが卵巣に転移すると、卵巣がんと非常に似ることがあります。診断に時間がかかって患者さんを不安にさせてしまうこともありますが、適切な治療のためには正しい診断が不可欠です。
初回治療か、再発治療か
一般的に、初回治療と再発治療の目的は異なります。初回治療は治癒を目的とすることが多く、体に負担がかかっても短期間に手術や化学療法を行い、がん根絶を目指します。ただし、初回治療でも進行がんの場合には、再発治療に近い方針をとります。
再発治療は治癒を目指す場合もありますが、初発よりも治りにくいのは事実です。進行を抑え、がんと長く付き合っていくことも目的となり、副作用との兼ね合いをみながら長期的に体調を維持していくことを目指します。また、再発治療ではこれまでに受けた治療内容とその効果が重要な指標になります。
卵巣がんではプラチナ製剤への感受性(薬が効きやすいこと)・抵抗性(薬が効きにくいこと)が、次の化学療法への効果や患者さんの予後を予測します。子宮頸がんでは、放射線を照射した範囲内に再発した場合、以降の治療に抵抗性があるとされています。
どの程度、進行しているか
がんの大きさや進展度合いで決まる病期(ステージ)は、予後を予測する重要な指標です。初期や早期のがんであれば局所治療である手術や放射線療法が選ばれ、他臓器に進展・転移している進行がんであれば全身治療である化学療法や免疫チェックポイント阻害剤が選ばれる傾向があります。
がんの病理診断
卵巣がんや子宮体がんといっても顕微鏡で観察すると多様な細胞型に分類されます。卵巣の漿液性がんと明細胞がんは、どちらも「卵巣がん」と呼ばれますが多くの点で異なります。卵巣漿液性がんは、厳密には卵管から発生することが多く、早い段階で腹腔内に転移するため進行がんが多いです。卵巣明細胞がんは、子宮内膜症由来とされ、初期がんが多いです。
両者は化学療法への感受性も異なります。進行がんが多く化学療法に感受性が高い卵巣漿液性がんは化学療法が治療の中心となりやすい一方、初期がんが多く化学療法に抵抗性がある卵巣明細胞がんは手術や免疫チェックポイント阻害剤が重視されます。
治療と遺伝子マーカー
がん治療は以前に比べて複雑化しています。以前は「ステージ3の卵巣がんならこの治療」と決定していました。しかし医学の進歩に伴い、BRCA遺伝子の変異、相同組換え修復の欠損(HRD)やマイクロサテライトの不安定性(MSI)など、患者さんのがんのマーカー(特性)を踏まえて治療を選択するようになりました。複雑化していく治療決定の過程で重要なのは、医師の説明力だとも感じています。特に分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤は特定の分子を利用するため、マーカーによってその治療が有効な患者さんを絞る試みが進められています。
婦人科がんの中には卵巣明細胞がんのように治療選択肢が限られているタイプもあります。私は米国でそうした患者さんに役立つよう、PPP2R1Aという遺伝子をマーカーとした治療法の開発に取り組んでいます。
矢野光剛
産婦人科専門医
大分県佐伯市出身。医学博士。大分大学医学部卒業後、大分大学で産婦人科医、2019年から埼玉医科大学国際医療センターで婦人科病理学研究に従事。23年から米国MDアンダーソンがんセンター博士研究員として婦人科がん治療開発研究を行っている。またFLATの医療アドバイザーも務める。
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