心と体のメンテナンス

ペットロス〜後悔しないためにできること(前編)

ペットの終末期治療と介護
費用対効果も考慮に入れて

 

Q. ペットの死後の飼い主の後悔とは?

A.

私が勤務する動物病院、往診サービス、専門師に送った患者から話を聞いたところ、以下の8つが多く聞かれました。①治療の選択の際、病状についての知識に自信がなく、適切な時期に適切な判断ができず、治療が遅れた、②飼い主のエゴでペットの苦痛を長引かせたのではないか、③上手に投薬できなかった、④安楽死を選択した、⑤治療費が出せなかった、⑥収入に合わない治療計画を選択した、⑦最期に一緒にいてやれなかった、⑧日頃の歯磨きを怠った(食欲はあっても、最後は歯痛のため食べることができなくなったケース)。

Q. 後悔しないために、できることは?

A.

後から「別の治療法を選んでいれば」という後悔を持たないためにも、ペットの病状について理解することは大事なことで、それには獣医師とのコミュニケーションをしっかり取ることです。英語で説明されて理解できなければ、Eメールで説明を送ってもらいましょう。そうすれば、後で辞書を引きながら調べることができます。せっかくお金を払って診てもらっているのですから、疑問があれば獣医師に連絡して聞いてください。

専門医に送られた場合は、治療前のコンサルテーションは重要です。専門医というのは、検査と治療のオプションをたくさん提示し、往々にして高額になります。しかし、それを全部やりなさいと言っているものではないので、プレッシャーを感じる必要はありません。費用、時間、ペットへの負担、残りの時間の予測(予後)など、専門医、主治医、家族と相談して、決めるのは飼い主です。

飼い主の後悔⑤と⑥に関係することですが、高額治療を提示された場合、「費用対効果」をクールに、合理的に考えることも重要です。高いお金を払える飼い主がいい飼い主ではありません。ペットの年齢や状態、QOL(生活の質)も考慮すべきです。がんの治療の場合、主治医の下で緩和医療を受ける選択肢もあるのです。

 

Q. 安楽死についてどう思われますか?

A.

安楽死=殺処分と考える人がいますが、それは違います。安楽死はあくまでも治療選択肢の一つであり、私は「尊厳死」という言い方の方が実態に即していると思います。医学的にできることが何も残されていないのに、なかなか死ねない病気もあるのです。痛みと苦しみからペットを解放するための安楽死が、最良の選択となるケースは少なくありません。家族で話し合って決めることが大事だと思います。

安楽死は飼い主の責任逃れだという人もいますが、これも違います。安楽死という苦渋の選択をし、ペットの最期の瞬間に立ち会うということは、飼い主としての責任を全うしているということ。「責任逃れだ」などと言う人が近くにいれば、聞く必要ないし、そういう人を近くに置かないようにしましょう。

関連で、ペットの闘病の様子をSNSに投稿する人がいますが、私はお勧めしません。飼い主の後悔②も、SNSで心ないコメントを受け取ったのではないかと思います。

 

Q. ペットを飼うときの覚悟について一言。

A.

「腹をくくること」。ペットを飼うことと、ペットを看取ることはセットです。ペットが飼い主よりも先に逝くのは当然で、飼ったからには看取ることが飼い主としての責務。ペットの一生を、丸ごと引き受ける気持ちと覚悟が必要です。(後編につづく)

 

 

 

 

 

 

添田晋吾先生
Shingo Soeda, DVM
_________________
日本・米国の獣医師。
アニマルシェルター兼動物病院ヒューメイン・ソサエティー・オブ・ニューヨーク勤務。
山口大学獣医学部卒業後、日本の動物病院で6年間勤務。
来米後、ニューヨーク市の総合動物病院アニマル・メディカル・センターで研修。
2007年、米国獣医師免許取得。
小動物鍼灸学修了。
特にペットの終末医療に力を入れている。
「Link Up Veterinary Care」を立ち上げ、往診サービスも提供。

 

Humane Society of New York
306 E. 59th St.
(bet. 1st & 2nd Aves.)
TEL: 212-752-4840
humanesocietyny.org

 

 

               

バックナンバー

Vol. 1318

私たち、こんなことやってます!

患者さまの歯を一生涯守り抜く、高品質で長持ちする歯科医療を目指すDental Serenity of Manhattanのチャン院長と、人と人とのつながりを大切にし、お客様に寄り添ったサポートを心がけるCOMPASS不動産エージェントの石崎さんに話を聞きました。

Vol. 1317

ソーバーオクトーバー 一カ月の休肝がもたらす静かな変化

お酒をやめることは、意志の強さの証しではなく、自分の調子を取り戻すためのセルフケアの一つ。世界中で広がる「ソーバーオクトーバー(禁酒月間)」は、心身のバランスを見つめ直す、穏やかな一カ月の習慣。飲まないことで見えてくる「自分」を、少しの勇気と共に体験してみませんか。

Vol. 1316

知りたい、見たい、感じたい 幽霊都市ニューヨーク

ハロウィーンまで残すところ3週間。この時期なぜか気になるのが幽霊や怪奇スポットだ。アメリカ有数の「幽霊都市」ニューヨークにも背筋がゾッとする逸話が数え切れないほど残っている。こよいはその一部をご紹介。

Vol. 1315

ニューヨークの秋 最旬・案内

ニューヨークに秋が訪れた。木々が色づきはじめるこの季節は、本と静かに向き合うのにぴったり。第一線で活躍する作家や編集者の言葉を手がかりに、この街で読書をする愉しさを探ってみたい。