巻頭特集

新学期がはじまる

遠隔授業の質を向上

ブルックリン日本語学園(週末教育)

非営利団体のブルックリン日系人家族会が運営するコミュニティースクール、ブルックリン日本語学園は、3月から遠隔授業に切替え、学費を通常の半額とした。

「子供と保護者が、授業中や放課後に直接フィジカルに交流できることも、当校の良さです」と話すのは、理事の松本哲夫さん。「オンラインでその良さが100%発揮できるかと聞かれれば、100%ではない。各家庭の経済状況も考慮しました」

利益ではなく、コミュニティーのニーズを追求する同校だからこその決断だ。

以来、教員に十分な研修を重ね、オンラインプログラムの品質向上に尽力。9月から始まる1学期では満足のいく授業が提供できるとして、授業料は通常時の3分の2に設定した。

現地校の授業やおけいこもオンラインで実施される現在、多くの家庭は、授業のオンライン化に理解を示している。

同校の取り組みとしては、授業教材を各家庭に事前発送。実験や工作などを多く取り入れた、より質の高いオンライン授業を行う予定だという。

 

対人と画面越しのコミュニケーションは大きく異なる(イメージ画像)

 

ソーシャライズの本質

自らも同学園で教鞭をとる松本さんは、オンライン学習でしか実現しない授業の魅力を実感しつつも、成長期の子供が物理的なソーシャライズの機会を失うことに懸念を示す。

「その場のダイナミクスや空気の変化を感じ、同じ空間にいる他者への立ち振る舞いを学ばないまま、1年あるいはそれ以上を過ごしてしまうことは心配です。例えるなら、ビタミンCの摂取はタブレットでも済ませられるかもしれませんが、『ミカンを食べる』という体験には、また違った意味がある」

全てが画面の向こうにあるとき、子供はどうやって「人を助ける気持ち」や「優しさ」を学ぶのか—。同校は環境の変化に柔軟に対応することで、ベストなクラスづくりを目指す。

【問い合わせ先】

bjafa.org/nihongogakuen

編入生は随時募集。面接はオンラインで行う。興味のある人は、上記ウェブサイトから募集要項を確認。


親と子供に寄り添って

Z会・栄光ラーニングセンター(学習塾)

「今までは、授業後にお迎えに来た保護者さまと直接お話しできていましたが、リモートの今は、一家庭ずつメールを送り、授業報告をしています」

そう話すのは、学習塾の栄光ゼミナール・マンハッタン校/ハリソン校責任者の鈴木智之さん。リモート授業の需要が増えている現在、国・算・理・社・英のほぼ全ての科目で、自らも教鞭をとっている。

同塾は、日本への帰国を見据えた日本語教育を提供しており、利用者の多くが日本の教育レベルを意識している。鈴木さんは、日米の教育システムの差に戸惑う保護者に、パンデミック前から耳を傾け、学校への対応などについてもアドバイスをしてきた。

「アメリカの現地校の小・中学校は、元々『たくさん勉強させる』というスタンスではないので、日本の学校に戻った際の学力の差を不安視する声をよく聞きます」と鈴木さん。「でも今は、『現地校が遠隔授業にどれだけ適応しているか』が学校によって差があり、学力差を一層心配する傾向があります」

現地校の学習の補てんという面でも、同塾の需要が増えている。「週1回、短時間で集中的に学ぶカリキュラムなので、効率がいいという面もありますね」

 

友達に会うことで、子供の気分転換になる(イメージ画像)

 

子供が求めているもの

親が「足りない」と焦る一方で、子供は遠隔授業に切り替わってからというものの、現地校から与えられる課題の量に疲弊している傾向があるのだという。

そこで鈴木さんは、今後カリキュラム内で休憩時間を増やすことにした。

「友達に会えるのを楽しにしている子供もいます。不安とストレスを少しでも解消して、楽しく学べる環境が作れれば」

自らが創意工夫をこらした授業に積極的に臨む、子供たちの姿と、保護者からの「大変な中、ありがとうございます」という声が、鈴木さんの大きな励みになっている。

370 Lexington Ave.,18th FI.
84 Calvert St.,1st Fl., Harrison, NY 10528
ze-edu.com
10月に、学力診断テストをオンラインで実施予定。最新情報は同塾ウェブサイトにて。


置いていく・いかれる不安

海津恵(大学インストラクター)

ニューヨーク市内の大学や教育プログラムで、グラフィックデザインやアートを教えている海津恵さん。パンデミック当初は、混乱した学校から「とりあえず授業は延期」とだけ告げられ、「再開日が分からないので、毎週常に授業の準備をしていました」と振り返る。

彼女の教育フィールドのオンライン化は、一筋縄ではいかない。

「生徒の自宅パソコンに、必要なソフトウエアが入っているとは限らない。授業プログラムとしても、購入が必要とは想定していませんでしたからね」

スマートフォンの普及で、パソコンを持たない人の割合も増えてきている。ビデオ通話には参加できたとしても、教材や資料を読みながらビデオを見ることは、画面の小さなスマホに適さない、と海津さんは指摘。

また、ハンディキャップを持ち、遠隔授業に適応できない人々が、「世間から置き去りにされてしまっている」ことにも懸念を示す。

ただ、オンライン化は悪いことばかりではないようだ。海津さんの知人の美術教師は「オンライン化することで授業以外での余計なやり取りが減り、授業時間に集中できるようになった」と話している。

海津さん本人としては、やはり同じ空間で教えるのが、教育者として一番いいと思っているそう。

「オンラインのワークショップよりも、実際に一カ所に集まった方が他者との『出会い』があるし、その後の関係性も続きやすいのではないかと思います」

 

機材の確保が難しい生徒への対策が焦点に(イメージ画像)

 

割れる教師の意見

海津さんの大学の授業プログラムは、9月頭現在、開講するか未定。市内で目立ったクラスター感染が発生していないこともあり、「ソーシャルディスタンシングや消毒などをしっかり行えば、対面授業でも大丈夫なのかな、と個人的には思います」と海津さん。

教師組合の中には、対面授業を拒否する動きもある。「自分の健康を害してまで授業をしたい教師もいないでしょうから、気持ちも分かりますけどね」

関連記事

NYジャピオン 最新号

Vol. 1240

今年のセントパトリックデーはイル文化を探索しよう

3月17日(土)のセントパトリックデー(Saint Patrick’s Day。以下:聖パトリックデー)が近づくとニューヨークの街中が緑色の装飾で活気づく。一足先に春の芽吹きを感じさせるこの記念日は、アイルランドの血を引く人にとっては「盆暮れ」と同じくらい大事。大人も子供も大はしゃぎでパレード見物やアイリッシュパブに出かける。聖パトリックデーとアイルランド魂の真髄を紹介する。