巻頭特集

【今週の巻頭特集】今年のニューヨークベスト

ベストレストラン

今年のベストレストランの筆頭

KabawaEast Village

ニューヨークタイムズやEaterなどがこぞって、2025年のNYCグルメシーンを象徴する一軒として挙げる、新しいカリブ料理店。同モモフク・グループで長年腕を磨いたシェフのポール・カーマイケルが率いて、カリブの伝統をベースにした、発酵やスパイスなどを駆使したモダンな料理を届ける。ジャマイカの路上屋台の定番・ペッパーシュリンプをあえて生のまま、ハイビスカスパウダーと発酵させた唐辛子ソースで提供するなど、高級感と遊び心を同時に兼ね備えたスタイルが大きな話題に。

8 Extra Pl.

TEL: 646-790-8747


ローカリティーと都会的センスが同居

SmithereensEast Village

昨年オープンしたニューイングランド風シーフードレストランが、今年のマンハッタンのグルメシーンで静かな注目を集めた。ロブスターロールやナラガンセットラガー(ビール)など、同地の食文化にインスパイアされたメニューが並ぶ。マサチューセッツ州サウスショア出身で、名店クロード出身のシェフならではのセンスが光る。特にロブスターは繊細な火入れによって、生のような食感であることが魅力。The InfatuationやResyなどのベスト新店リストに選出された。

414 E. 9th St.

Email:hello@smithereensnyc.com


南部の味をブルックリンで

Pitts(Red Hook)

東欧系のルーツを持つシェフのジェレミー・サラモンが、人気店アギズ・カウンターに続いて手がけた新たな一軒。彼が料理人として過ごしたノースカロライナなどの南部料理の要素を軽やかに取り入れる。オイスターマヨネーズを添えたピクルドシュリンプ、カントリーキャプテン風に仕立てた雛鶏のフライ、パンケーキのような味わいのふわふわスフレまで、懐かしくも洗練された料理を提供する。温もりのある家庭料理を現代的に再解釈した一軒として、食通たちの評価を集めた。

347 Van Brunt St., Brooklyn, NY 11231

TEL: 718-440-4232


ベストブック

ブッカー賞ノミネートのNY心理小説

『Audition』Katie Kitamura

マンハッタンのレストランで向かい合う年齢差のある男女。その関係性は、母と息子なのか、恋人なのか、他人なのか。物語は二重構造で展開し、読んでいるうちにその前提が揺さぶられていく。冷ややかで緊張感のある筆致で人間の心理を描き切った大作。ニューヨーカー、タイムなどが今年のベストブックスに選出し、ブッカー賞最終候補にも名を連ねた話題作。

Riverhead Books


NY黒人画家、その創作と葛藤

『Minor Black Figures』Brandon Taylor

黒人でゲイの画家が表現することの意味を探っていく長編小説。ニューヨークのアート業界の競争のなか、自身の創作に行き詰まりを感じた主人公は、バーで出会った元神学生と親交を深めながら、忘れ去られた黒人アーティストの足跡を追う。創作とアイデンティティーの葛藤が静かに描き出される本作について、ニューヨークタイムズは「最も完成度の高い小説」と評した。

Riverhead Books


オバマ前大統領も推薦する大作

『Flashlight: A Novel』Susan Choi

ある夏の夜、父と散歩に出た少女が海辺で発見され、父は行方不明となる――。その出来事を起点に、家族の記憶と喪失を辿る。韓国、北朝鮮、日本、米国といった各国を舞台に、個人史と世界史が交差する。見えなかった真実が時間をかけて浮かび上がる構成は、読者に深い余韻を残す。ニューヨーカーほか多数メディアが今年のベストブックに選出した。

Farrar, Straus and Giroux


ベストアート

ブラックアートの横断的展示

Rashid Johnson:A Poem for Deep Thinkers(1月19日まで)

現代美術を代表するアーティストの大規模個展。絵画、彫刻、映像など約90点の作品を通して、ブラックカルチャーの歴史、作家個人の記憶を縦横無尽に辿っていく。螺旋状の館内最上部に設置された新作「Sanguine」は、ピアノを使用したインスタレーション。美術館全体を使った、鑑賞と体験の合わさった巧みな構成が話題に。

Guggenheim Museum

1071 5th Ave.

TEL: 212-423-3500


批評界が注目する政治的アート

Coco Fusco: Tomorrow, I Will Become an Island(3月1日まで)

キューバ系米国人アーティストにして視覚文化研究者である作家の全米初となる大規模回顧展。1990年代の代表的パフォーマンスから最新作まで、映像、写真、インスタレーションを通して、権力、表象、監視、植民地主義といったテーマを鋭く問い直す。自身を「見られる存在」として展示空間に置く手法は、鑑賞者の視線そのものを揺さぶる。美術批評界が注目する、ポリティカルアート。

El Museo del Barrio

1230 5th Ave.

TEL: 212-831-7272


アフリカ写真の傑作展示

Seydou Keïta: A Tactile Lens(5月17日まで)

20世紀アフリカ写真を代表するマリ出身の写真家の北米最大規模の回顧展が開催されている。1940~60年代のバマコ(マリの首都)を舞台に、約280点の肖像写真や未公開作品、作家の私物などを展示し、マリ独立期の社会と人々の姿を生き生きと浮かび上がらせる。被写体と協働しながら撮影された写真は、個人の尊厳と時代の変化を同時に写し出す。

Brooklyn Museum

200 Eastern Pkwy., Brooklyn, NY 11238

TEL: 718-638-5000


ベストアルバム

ブルックリン発の最注目バンド

『Getting Killed』Geese

ブルックリン発のZ世代バンドが放ったサードスタジオアルバム。ポストパンクやロック、ファンク、インプロなどのサウンドを駆使し、制御不能なエネルギーが横溢する。過剰でユーモラスでありながら、同時に鋭い社会感覚を帯びたサウンドは、NYのインディーシーンに新たな勢いをもたらした。ニューヨーカーなど各メディアが2025年のベストバンドとして注目。今年のブルックリン音楽を象徴する一枚。


実験的でポップな新しさ

『It’s A Beautiful Place』Water From Your Eyes

ニューヨークを拠点に活動するデュオの最新作。ギターを軸にしたオルタナポップでありながら、ポストパンク、ダンス、シューゲイズ、実験音楽といった多彩なジャンルを軽やかに横断。ポップな響きの裏側には、どこか不安定で哲学的な感覚が潜んでいて、聴き手に心地よさと微かな違和感をもたらす。Pitchforkなどが今年のベスト音楽に選出した。


NYヒップホップの最前線

『Showbiz!』MIKE

NYアンダーグラウンドヒップホップを代表するラッパー・プロデューサーの最新アルバム。ローファイで内省的なビートに乗せ、名声、成功、孤独といったテーマを淡々と、しかし鋭く歌い上げる。過度に感情を煽ることなく、自身の内側を見つめるその語り口は、NYラップの成熟を象徴するものだろうか。インディーながら確かな存在感を放ち、今年のヒップホップシーンを静かに更新した一作となった。

               

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