プロスポーツから見る経営学

第84回 期待が高まるNWSL

注目される女子サッカー界の未来

2023 FIFA女子ワールドカップ・オーストラリア/ニュージーランドが閉幕し、女子サッカーの世界は熱狂の渦に巻き込まれています。しかし、今回は女子ワールドカップだけでなく、米国のプロ女子サッカーリーグ(NWSL)でも注目すべき出来事が起こっています。

それは、シカゴ・レッドスターズの売却です。

NWSLのシカゴ・レッドスターズの買収は、リーグの未来に向けた大規模な取引となりました。この取引は、最大で3550万ドルの購入価格が含まれており、これはNWSLの歴史の中において最高額です。つい1〜2年前までは、NWSLのチームを買収したい際の価格は約500万ドルと言われていたことを鑑みますと、物凄い勢いでの成長となります。昨年からコミッショナーも代わり、リーグとしての経営方針も大幅に変更があった中で、この売却により、NWSLはその価値とポテンシャルを証明したと言えるでしょう。

注目の的はオーナーの多角的な経験と視点

シカゴ・レッドスターズの新しいオーナー、ローラ・リケッツは、多くの地元および国際的なビジネスリーダーからなる投資家グループを率いており、その経験とビジョンにより、クラブの未来は明るいものと期待が寄せられています。リケッツはMLBのシカゴ・カブスのファミリーオーナーグループの一員であり、米国のプロ女子バスケットボールリーグ(WNBA)のシカゴ・スカイの共同オーナーでもあります。彼女の多角的なスポーツビジネス経験が、新たなエネルギーをNWSLにもたらすことでしょう。

クラブの課題解決がNWSL全体の成功に

しかし、シカゴ・レッドスターズの成功にはいくつかの課題も待ち受けています。その中でも最初に取り組まなければならないのは、長期的視点に則ったホームスタジアムの決定です。現在、チームはイリノイ州のブリッジビューにあるシートギーク・スタジアムで試合を行っており、公共交通機関からのアクセスが難しいという問題を抱えています。また、観客動員もリーグ最低レベルで、現在のリース契約は2025年まで続いています。

リケッツは、この課題を「チャレンジと機会が兼ね備わったもの」と捉えており、施設のアップグレードを追求する意向を示しています。新たなスタジアムの建設や既存スタジアムの改修により、ファンエクスペリエンスの向上が期待されます。これにより、シカゴ・レッドスターズはより多くのサポーターの観戦体験を向上させ、NWSL全体の成功に貢献することになるはずです。

さて、NWSLの未来はどのように展望されているのでしょうか? 現在のCBSとの3年間のメディア権契約は今シーズン終了時に切れる予定で、新しいメディア権契約の規模は未知数です。しかし、新たなオーナーシップ、女子サッカーの機運、そしてリーグ全体の成長への期待が高まっている中で、現在より良い契約を新たに結ぶのではないかと言われています。リーグは選手のレベルや競技の質において急速に進化し、国内外からの注目度も上昇しています。

女子サッカーの成長と普及

2023 FIFA女子ワールドカップもNWSLの盛り上がりを後押ししており、その興奮がNWSLにも波及しています。ワールドカップの成功は、女子サッカーの成長と普及にとって重要な要素となっています。

米国女子代表は今大会ベスト16で大方の予想に反して敗退をしたものの、そのスターダムは健在です。ほとんどの代表選手たちがNWSLで素晴らしいプレーをしていることは大きな魅力です。

NWSLのシカゴ・レッドスターズの売却はリーグの価値を高め、新たなオーナーシップによる施設のアップグレード、顧客体験の向上はクラブの成功に向けた重要な一歩です。2023 FIFA女子ワールドカップの盛り上がりとともに、米国女子サッカーはますます注目され、今後大きく成長していくことでしょう。NWSLの未来にはさらなる期待が寄せられており、ファン、サポーターとともにその発展を見守りたいと思います。

 

中村武彦

青山学院大学法学部卒業後、NECに 入社。 マサチューセッツ州立大学アマースト校スポーツマネジメント修士課程修了。メジャーリーグサッカー(MLS)、FCバルセロナなどの国際部を経て、スペインISDE法科学院修了。FIFAマッチエージェント資格取得。2015年にBLUE UNITED CORPORATIONを設立。東京大学社会戦略工学部共同研究員や、青山学院大学地球社会共生学部非常勤講師なども務める。

               

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