巻頭特集

11月8日まで秒読み中間選挙について知りたい

大統領選挙と並んで米国政治の行方を左右する中間選挙が目前だ。有権者が重視する問題、ニューヨーク州と勝敗の鍵を握る注目州の候補者について解説する。(文/加藤麻美)


連邦議会は上院の3分の1、下院全議席が改選に

米国では大統領と副大統領が4年ごとに選挙人団(Electoral College)による間接選挙で選出されるが、そのちょうど中間となる年の11月第1月曜の翌日の火曜に全米で一斉に実施される選挙が「中間選挙(Midterm Election)」だ。連邦議会では任期が6年の上院(Senate)は2年ごとに議員の3分の1が改選され、任期が2年の下院(House)は2年ごとに全議員が改選される。連邦議会だけでなく、36州と準州3州の知事も中間選挙で選出される。

連邦議会の定数は上院100議席、下院435議席。上院は現在、民主・共和共に50議席だが、採決で同数の場合は議長を務める副大統領が1票を投じるため、民主党がかろうじて多数派となっている。また下院も民主党が221議席、共和党が212議席で民主党が多数派を占めている(下の図を参照)。

大統領就任の翌年に行われることから、中間選挙はしばしば政権与党に対する国民投票と考えられている。この2年間、与党やホワイトハウスは何を達成したのか、国は正しい方向に向かっているのかが審判され、その結果によってその後の政権運営が左右される。さらに2年後の大統領選挙の行方を占う上でも極めて重要な意味を持つ。上・下院共に与党(現在は民主党)が多数派を占めれば、政権運営は円滑に進むが、上・下院のどちらかの多数派を野党(現在は共和党)が奪えば、ねじれ議会となり、政権運営は困難に直面する。上・下院共に野党が制した場合は、政権はレームダック(死に体)となる可能性が高い。主要メディアは、2022年中間選挙で有権者が検討する重要な問題として、「バイデン政権の成果」「経済とインフレ」「中絶の権利」「トランピズムと民主主義」の4つを挙げている。

バイデン政権の成果

ガス価格の下落や学生ローンの一部免除などにより、一時的に人気が回復したバイデン政権だが、ここにきてまた支持率が落ちている。

最新の世論調査(※1)によると、登録有権者の中でバイデン氏の手腕を「評価する」と答えた人は39%で、9月の調査時から2%低下していた。バイデン氏の支持率は1978年以降の中間選挙で議会の支配権を失った各大統領と同じか、それよりも低い。「米国は正しい方向に向かっている」と答えた人も27%から24%に低下、「誤った方向に向かっている」と答えた人は、60%から64%に上昇していた。来月8日の選挙で「共和党に投票する予定だ」と答えた人は44%から49%に上昇。一方、「民主党に投票する予定だ」と答えた人は46%から45%に低下していた。

経済とインフレ

選挙になると必ず出てくる名言「要は経済なんだよ、バカタレ(It’s the economy, stupid)」(※2)にもあるように有権者にとって最も重要な問題は経済である。人は自分の懐が潤っていれば現状に満足するが、生活が苦しくなれば不満の矛先を政治に向ける。

米国は過去40年間で最も急速なインフレに直面しており、食品、ガス、その他必需品の価格が高騰。失業率は過去50年で最低を記録し人材不足も相まって給料も上昇しているが、インフレに昇給が追いつかず、国民の生活水準は低下している。先述の世論調査で投票の際に最も重視するのは「経済」と答えた人は「インフレや生活費」と答えた人と合わせて44%で、中絶や移民、犯罪、銃政策、教育などを合わせた「社会問題」と答えた人の35%を大きく上回った。

中絶の権利

最高裁は今年6月、ロー対ウェイド判決によって憲法上保護されている中絶の権利を覆した。民主、共和党は共に23年に議会を支配した場合の新しい連邦中絶法案を提案している。民主党は中絶の権利を連邦法に成文化することを公約。一方、共和党は全米で妊娠15週以降の中絶禁止を提案している。中絶の権利は個々の州でも展開され、知事、州議会議員、司法長官に誰を選ぶかで中絶手術の合法性が左右される。

世論調査(*3)では米国成人の61%が、「全てまたはほとんどの場合において中絶は合法であるべき」と考えている。22年中間選挙の結果は、米国人の公衆衛生や人権に直接影響を与えると言っても過言ではない。

トランピズムと
民主主義

22年中間選挙は昨年1月6日に起きた連邦議会議事堂襲撃事件後初の連邦選挙だが、「20年の選挙は盗まれた」と執拗(しつよう)に陰謀論を繰り返すトランプ氏が共和党に及ぼす影響力は依然として大きい。今回はほぼ全ての州で同氏の陰謀論を支持する人間(Election Denier)が立候補している。

政治サイトのファイブサーティーエイト(FiveThirtyEight)(※4)の調査によると、公職に立候補している共和党の全候補者552人のうち200人が20年の選挙の正当性を完全に否定していた。これらの候補者は「選挙が盗まれた」と明確に述べたり、選挙結果を証明しない方に投票したり、選挙結果を覆そうとする訴訟に参加するなどしていた。加えて62人の候補者は、「選挙が正当である」との明言を避け、さらに陰謀の可能性もほのめかせていた。122人が20年の選挙に対する質問に答えないか、直接問われたときに回答を避けていた。

ほとんどの州で選挙を監督する立場にある司法長官および州務長官の選挙にはElection Denierが7人出馬している。トランプ氏の陰謀論を支持する候補者が当選し公職に就いた場合は、有権者の意思に反する選挙票を提出する可能性がある。さらに言えば、トランプ氏の陰謀論を支持する上・下院議員は24年の大統領選で選挙人(Electoral College Vote)として投票できる。与党民主党が中間選挙を「民主主義を守る戦い」と定義するのはこのためだ。

(※1)ニューヨークタイムズ/シエナカレッジ(10月9〜12日に実施)
(※2)1992年の大統領選でクリントン元大統領の参謀を務めたジェームス・カービルの言葉。クリントン氏はキャンペーンで経済政策を全面に押し出し、現職のブッシュ(父)氏を破った。
(※3)ピュー・リサーチ・センター(5月6日付)
(※4)全共和党候補者に連絡し回答を求めた他、ニュース報道、討論映像、キャンペーン資料、SNSなどの情報を総合して候補者の立場を決定した。

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