巻頭特集

H、E、L、Oビザなどの非移民ビザや永住権に関する最新情報を紹介

2023年度DV(移民多様化)抽選永住権の米国務省受付が、9日正午で終了した。今号では、H、E、L、Oビザなどの非移民ビザや永住権に関する最新情報を紹介する。(取材・文/加藤麻美)


新政権とパンデミック下のビザ状況

バイデン政権と新型コロナウイルスのパンデミックが、移民政策と非移民ビザおよび永住権取得にどのように影響しているのか。移民法改正も含め、トランプ前政権時と比べてどのように変わったのかを、移民法専門のアンドリュー・セラウロ弁護士に聞いた。

◆ ◆ ◆

まず、皆さんに理解しておいてほしいのは、大統領には新しい法律を作る権限はないということです。ポリシー(政策)やレギュレーション(規則)は変えられますが、法律は変えられません。法律の基となる法案は議会、すなわち上院と下院で可決されない限り成立しません。大統領は可決された法律をどのようにして実行するかについての権限を持っているだけです。

現在、下院は民主党が多数を占めていますが、上院は共和党と民主党が50対50で同数です。副大統領がタイブレークできますが、上院には「フィリバスター」という多数派の意見に反対の議員が審議を遅延させる方法があり、フィリバスターが行われた場合は60%以上の賛成がない限り法案は成立しません。

トランプ前大統領も移民法を変えようと試みましたが、そのほとんどが議会を通過せずに終わっています。「DACA」プログラム(いわゆるドリーマー)の廃止を求めて上訴もしていましたが、米最高裁は2020年6月、その訴えを却下しています。

バイデン大統領も現在、富裕層への増税をはじめ、刑事司法制度、医療、主要インフラ強化(※注)や環境規制、賃金、移民などさまざまな分野で法案を通そうとしています。しかし、上・下院の賛成が得られず、実現に至っていません。特に移民法に関して言うと、バイデン政権および民主党は、米国内に1100万人以上いると推定される、合法な滞在許可証を持たない移民(Undocumented Immigrants・以下UI)に適正なビザや滞在許可を発行し、合法化することを目指していますが、法案成立には至っていません。

トランプ前政権は、犯罪者(クリミナル)とUIを同等に扱い、飲食店や工場などに立ち入り捜査し、UIを逮捕・連行し、本国へ強制送還していましたが、バイデン政権はトランプ前政権の方針から転換し、これらの法執行の対象をテロなど国の安全に関する脅威や犯罪歴を伴う人物により焦点を当てています。

こうした変化は、バイデン大統領が就任してすぐに大統領令として出したものです。

(※注)下院は5日、インフラ投資法案を可決した。上院は8月に可決しており、バイデン大統領の署名を経て成立する。

知ってた?

バイデン政権は「Illegal Immigrants(不法移民)」という言葉を使わず、「Undocumented(滞在許可の書類を保持しない)」または 「Unauthorized(滞在が正式に認められていない)」「Immigrants」という言葉を使用。ニューヨーク市は昨年5月27日から市の職員や法執行機関が移民を指す「Alien」や合法滞在資格を持たない移民を指す「Illegal Immigrants」といった言葉の使用を禁止、現在は「Noncitizen」という表現になっている。

 

 

 

アンドリュー・セラウロ弁護士

1979年、ホフストラ大学ロースクール卒業。
83年、アンドリュー・セラウロ法律事務所を設立。
ニューヨーク市を拠点に、40年以上にわたり個別の移民法サービスと戦略的なアドバイスを提供。
また、研究機関や企業を対象に移民法に関するセミナーも実施している。
米国移民法弁護士協会会員。
andrewceraulo.com


もう一度おさらいしよう!バイデン大統領の主な移民政策

●米国に居住する一定の資格を満たした不法移民に市民権獲得への道を開く法案を議会に提出
●13カ国からの入国制限を撤廃
●メキシコ国境沿いの壁建設を停止
●メキシコ国境での引き離された親子の再会を優先
●選挙区再編の際に不法移民を人口に数えないようにするトランプ氏の政策を撤回
●幼少期に親と米国に不法入国した若者「ドリーマー」の強制送還を猶予する「DACA」プログラムの有効性を確保する覚書に署名
●新型コロナウイルス流行中の移民の入国制限を撤廃
●トランプ氏が不法移民の取り締まり強化を求めた政策を撤回
●永住権申請におけるパブリックチャージ(メディケードやフードスタンプなど)の規則を撤回

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