巻頭特集

コロナで変化 アメリカのキャッシュレス事情

新型コロナウイルスの影響で、ますますキャッシュレス化が加速している。コロナ禍での変化や便利なツールなどを、専門家たちに聞いてみた。


アメリカのお金の仕組み

世界の中ではまだまだ進化途中だという、アメリカのキャッシュレス化。モバイルアプリや国際送金などについて、アクセンチュア株式会社の上谷亮平さんが解説する。

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モバイルアプリの進化

日本におけるキャッシュレス決済比率(図表参照)は、2016年時点で20%程度と、アメリカの45%と比べて遅れている。そのアメリカでも、クレジットカードと現金の利用は多かったが、このコロナ禍により消費者の中で、非接触志向が広がっている。

そういった中で、モバイルウォレットの普及が進んでいる。モバイルウォレットは、電子マネー、クレジットカード、会員証、クーポンなどの情報をスマートフォンのアプリに格納し、決済を行うサービスを指す。中国で利用者トップのAliPayのように、金融サービスだけでなく、ショッピング、食事、交通、娯楽など、生活で使うサービスを総合的な体験として提供し、ユーザーの囲い込みを図るのがトレンドだ。

例えば、小売業者(ウォルマート社、ターゲット社、アマゾン・ホールフーズ社など)では、ストア用モバイルアプリをウォレットのように進化させ、顧客により便利な買い物体験を提供している。

アプリは顧客に商品の在庫や価格、リアルタイムの混雑状況を案内する。スキャンアンドゴー(買い物中に商品をあらかじめスキャンしておき、出口で決済する仕組み)により、レジ待ちすること無く、スムーズな買い物が可能だ。購入したものはアプリ上から再購入ができ、リワードプログラム、キャッシュバックアプリ(Ibottaなど)と組み合わせて使用する人もいる。

一度購入した商品などを基に、小売業者が顧客に合わせた商品を勧め、それを顧客が再購入する確率は、弊社の統計によると、消費者全体の75%に上る。このような一連の購入活動の中で、顧客が常にアプリに触れる接点を作り、顧客の行動データを基にニーズを分析して、リピーターの確保へとつなげているのだ。

国際送金の仕組み

国際送金の総合的な体験への組み込みは途上だ。従来は、送金指図してから受取口座に着金するまで、複数の銀行を経由して送金せざるを得ず、1週間くらい時間が掛かる場合や、約5%の手数料が引かれる場合があるため、少額送金を頻繁に行うのは難しかった。

しかし最近では、送金サービス(Transferwise社など)により、2営業日、手数料1%未満程度の送金も可能となった。また、フィンテック企業のRipple社は、改ざんを防ぐためのブロックチェーン技術を用いたネットワークを運営し、新しい形の国際送金に取り組んでいる。

一方、日本ではPayサービスの不正利用の事故が相次いでいる。モバイルウォレットは、一般的には個人情報が盗み取りづらいとされるが、個人情報を流出させないよう、SMS(ショートメール)による2段階認証、本人認証を実装したサービスが求められている。

そんな中、暗号資産について中央銀行が金融機関を通して発行する、CBDC(Central Bank Digital Currency)が動き出した。これにより、個人間決済、日常決済や国際送金における活用を視野に入れた、資金移動の実証実験を行っている。従来の現金と並存する形で、誰もが、いつ、どこでも、安心して使える決済手段としての活用が望まれている。

世界の動向について知り、決済の選択肢を知ることで、今後の生活がより豊かで便利になるのではないだろうか。

上谷亮平 Ryohei Uetani

アクセンチュア株式会社 
ビジネスコンサルティング本部 シニア・マネジャー
金融機関向けの業務・ITコンサルティングに従事。
銀行間国際送金ネットワーク(SWIFT)および決済業務に関するシステム開発を経験。
近年は、アクセンチュア日米オフィスのブリッジ業務(ジャパン・デスク)を担当し、ニューヨークのチームと協働する傍ら、フィンテック活用、暗号資産の動向についてリサーチを行う。

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