We Love New York♡ニューヨークを良くしたいっ!

ニューヨーク地下鉄構内から始まった「サブウェイセラピー」。今ではニューヨークのみならず、ヨーロッパや日本でも開催されるなど、その活動は世界に広がっています。今回はその主催者でありアーティストのマシュー・チャベス氏にお話を伺いました。


「人々の気持ちを軽く、ラクにしてあげたい」

小さなアクションが偉大な変化に、続けることでなにかが変わる

人と直接話す、気持ちを外に出す、という大切さ

「サブウェイセラピー」は、9年前、アーティストでもある僕自身のアート活動の一つとしてスタートしました。当初は「ニューヨーク・シークレット・キーパー」と言い、名前も形態もまったく異なるスタイルでした。地下鉄14ストリート駅構内通路で始めたのですが、僕が用意した1冊のノートに通りすがりの人たちが秘密事を書き残す、というやり方でした。実際はノートへの書き込みより僕と雑談を好む人のほうが多く、彼氏と喧嘩した、子供が学校でトラブルを起こした、仕事がつまらない、など、たわいもない愚痴がほとんどでした。そんなある日、僕と話した女性が「あーすっきりした!これって私にとって本当にセラピーよ!」と言ってくれて。僕自身は自分の両親とも関係が近く、なんでも話せる友人がいつも周りにいて。でも、そうでない人も世の中にはたくさんいて、誰かに自分の言葉で直接的に気持ちを打ち明けたり、話が出来るたりすることは、実はとてもラッキーで恵まれていることに気がつきました。それをきっかけに、「ニューヨーク・シークッレット・キーパー」は「サブウェイセラピー」へと変わりました。

ただ、その時点ではまだポストイットは登場せず、そこに来た人と雑談し、相手の話を聞くだけ、というものでした。実際のセラピストをイメージし、僕はスーツを着用、カウンセリングルーム風に机と椅子を設置して。フェイクの資格証を通路の壁に飾りました(笑)。パフォーマンスの一つとして、楽しみながら人々の話を聞いていました。

ポストイットに人々がなにかを書き残して壁に貼るという現在のスタイルになったのは、2016年にドナルド・トランプが初めて大統領選に勝った夜です。その選挙前日にちょうど14ストリート駅で「サブウェイセラピー」をしていたのですが、そこではトランプが大統領になるのがどんなに不安か、これから米国はどうなるのか、など多くの人が僕に話に来ました。トランプを支持する人も実はマンハッタン区にはすごく多かったです。だから僕は次の日にトランプが当選するだろうと確信していました。そして実際に翌日、トランプが大統領に選ばれました。ポストイットにしようと思いついたのはその時です。もっと多くの人がそれぞれの思いや感情をアウトプット出来るように、そうすることで人々の心の不安や重荷を少しでも解消できるのではないか、気持ちをラクに出来るのではないかと。すぐに近所の100円ショップに駆け込み、ポストイットとペン、その他さまざまな文房具を買い込みました。その日から「サブウェイセラピー」が現在の「サブウェイセラピー」になったのです。

ファウンダーのチャベス氏(左)と共同主催者のベン

中には3時間話し込む人も

 

人との対話や直接的な触れ合いが難しい現代

僕の活動の根っこは、どうやったら人の心をより心地よく、ラクにしてあげられるか、ということです。ソーシャルメディアが普及し、さまざまな人々と繋がることが出来ているような錯覚に陥りますが、実際に人と直接話したり接する機会は少なく、難しくなってきていると思いませんか?ソーシャルメディアの影響はとても大きいけれど、インフルエンサーと呼ばれる人々は、単にフォロワー数を持っているだけで、実質的な活動をするコミュニティーを作っている人たちはそう多くありません。コミュニティーとそこでなにか活動することは、とても大事なことで、ソーシャルメディアよりよっぽど意味のあることだと僕は思っています。

僕たち人間は皆、生きている目的や地域、コミュニティーなど、どこかに所属しているという帰属意識、直接的に話が出来る相手や、日常の些細な愚痴を言う機会を探しているのだと思います。「サブウェイセラピー」をしていても、ポストイットには触れず、僕にいつも話をしに来るだけの常連さんもいます。そんな経験から、「サブウェイセラピー」と並行して自身のノンプロフィット団体を設立し、「リスニングラボ」という1対1で対話する活動も5年ほど前から始めました。ストーリーテリングや政治経済、米国の愛国主義やスーパーボールのようなスポーツまで、会話のお題はさまざまで、人々が声に出して自分の考えや思いをアウトプットできる場を提供しています。

すべて保管してあるポストイットたち

 

誰でも出来る! 小さなことから始めよう

僕たちはほんの小さなことなら誰もが出来るし始められます。小さなことなら長く続けていくことも可能です。他人の話を聞くことは僕じゃなくて誰でも出来ます。ほんの些細なことでも地域や人々になにかしら良いことを提供し続けていくことで、自然と好機も向こうからやって来ます。それは僕自身も体験済みです。

大事なことは、より良い方向に向かうようにと願い、その思いを行動にすることです。毎日でも毎月でもいいから無理なく出来る小さな行動が、日常や他人、世界や未来をより良く変えることができるのだと思うのです。先日も世界中に「フリーフラワーズ=見知らぬ人に花を渡してハッピーに!」というプロジェクトを呼びかけ、実行しました。1月1日、3月3日、5月5日など、同じ数字が並ぶ日に小さなハピネスで人を嬉しくさせようという活動の一環です。「サブウェイセラピー」も、今世界に一人歩きしています。それはとても素晴らしいことで、つい先日もインスタグラム経由でインドやドイツから開催したいという連絡がありました。2021年には日本の京都のエースホテルでも開催されました。

自分を含め、すべての人の人生に起きることは、自分がたどり着きたいところに通ずると思います。僕自身もここまで来るのにいろいろな人生のピースを、そうとはわからずピックし人生のパズルに並べてきました。人生のパズルピースは必ず最後にフィットします。時に迷ったり落ち込んだり、暗くドン底な気持ちになることもあります。仕事や恋人、現状に満足しない、だからといってどうやって現状を打破していいかわからない人もたくさんいます。それでもいいのです。僕もそうでした。だから不安にならないで下さい。なにか良いことをしたい、そう思い、それを行動にしていくことが一番大事で、そうすることであなたの未来は必ず開けてくるのです。

京都のエースホテルでも開催

               

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