【特別レポート】ニューヨーク映画祭

毎年、世界中から選び抜かれた多くの長編・短編作品が上映されるニューヨーク映画祭。例年よりも多く、日本作品が上映された華やかな映画祭の様子をお届けする。(取材・文:音成映舞)


今年は、全米脚本家組合(W G A)と全米映画俳優組合(SAGAFTRA)のストライキが続く中、9月29日〜10月15日まで第61回ニューヨーク映画祭(NYFF)が開催された。上映後に登壇したのは、一部作品の俳優たち以外、監督やプロデューサーなどと、例年よりも華やかさは少し欠けていたが、ラインナップは前年よりも良質な作品が多かった。

例年よりも多い日本語作品の上映

今回は、宮崎駿監督復帰作として日本でも話題となった『君たちはどう生きるか』や、第94回アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督の新作『悪は存在しない』、今年3月に亡くなった坂本龍一さんの最後のパフォーマンスを捉えたドキュメンタリー『RyuichiSakamoto | Opus』、5月に行われたカンヌ国際映画祭で主演の役所広司さんが最優秀男優賞を受賞したPERFECT DAYS』ら、4作品が上映された。

北米公開が決まっている中でも、濱口監督の作品はすでに、第80回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(審査員大賞)を受賞し、注目を集めていた。

音楽から映像を作るという新たな試み

この作品は通常の映画制作とは少し異なっている。それは、音楽から映画を作るという試みを行っていることだ。

「本作で音楽を担当した石橋英子さんから、ライブパフォーマンス用の映像を作ってほしいと言われました。ただ、自分はそういう映像を作ったことがなかったので、2年ぐらい完成までに時間が掛かりました。メインテーマ曲はその当時まだ出来上がっていなかったのですが、3曲ほどのデモから前作でも一緒に仕事をしていた彼女の音楽性は十分に現れていたので、彼女の音楽に対応する映像を作ろうとしました」

本作の魅力は映像と共に流れる音楽だが、監督は映像にもある手法を使ったという。

「彼女の作ってくれたテーマ曲は本当に素晴らしく、感情的にも観客を高めてくれると思いました。しかし、自分自身が音楽によって観客の感情を高めるということにあまり肯定的ではないところがあって。どういう使い方をすれば良いかとなった時に、彼女の音楽の美しさは最大限に生かしつつ、音楽にあまり依存しないよう心掛けた事が、映像と音楽に距離ができるようにする事でした。結果的に映像を一部切ることによって、彼女の音楽の美しさを保ったまま、映像と音楽に少し距離が生まれる。それまで高まっていた観客の聴覚というものが、劇中の自然の音へ向かうのではないかと思い、こういう作りにしました」

感覚を刺激する、何回観ても飽きない作品

この作品の魅力は衝撃的なエンディングを含め、何度見ても飽きないところだろう。それは監督自身も感じているそうだ。

「自分がいただいた感想で嬉しかったのが、3回目に完全に理解したと言っていた人がいました。自分は編集で100回くらいは見ていると思うのですが、それでも目が喜んでいる、耳が喜んでいるという感覚をとても持っています。そういう感覚を観客の皆さんにも持って帰っていただけたら本当に嬉しいですね」

『悪は存在しない』 (英題:Evil Does Not Exist)

【あらすじ】自然豊かな山村にグランピング施設の建設の話が浮上する。しかし、町の水源に汚水が流れることがわかる。

北米公開:時期未定

濱口竜介監督

1978年生まれ。村上春樹の短編小説を映画化した『ドライブ・マイ・カー』でアカデミー賞国際長編映画賞を受賞。その他作品に、『ハッピーアワー』、『寝ても覚めても』、『偶然と想像』など。


NYFFで上映された日本映画

『PERFECT DAYS』

映画「パリ、テキサス」などで知られるドイツの名匠、ヴィム・ヴェンダース監督と俳優、役所広司さんがタッグを組んだ作品。東京・渋谷区の公共トイレ清掃員の日常を穏やかに切なく描いている。

北米公開: 時期未定

『君たちはどう生きるか』(英題:The Boy and the Heron)

10年ぶりに復帰した宮崎駿監督の長編アニメーション。母親を火事で失った少年・眞人(まひと)は、父と共に東京を離れ、「青鷺屋敷」と呼ばれる屋敷へ引っ越してくる。

北米公開: 12月8日

『Ryuichi Sakamoto | Opus』

今年3月に他界した音楽家、坂本龍一さん最後の演奏の様子を描いたドキュメンタリー作品。監督は、坂本さんの息子であるNeo Soraさん。全編で4Kカメラを使用し、モノクロで撮影されている。

北米公開: 時期未定

関連記事

NYジャピオン 最新号

Vol. 1248

この春はちょっと贅沢なピクニックを体験しよう

ようやく気温も安定してきた5月。晴れた日は芝生の上でピクニックするのが気持ちいい季節。ピクニックといえども時には一つおしゃれに盛り上げたいもの。ここ2、3年で急成長しているピクニックビジネスの実態を覗いてみた。ランチやスナックを用意して、さぁ公園へいこう。

Vol. 1247

我らのドジャース

大谷翔平選手の一挙手一投足から目が離せない。スポーツ報道でLAドジャースの名前を見ない日はない。5月1日現在の勝率・621でナ・リーグ西部地区トップ。そのドジャースが、5月末には対NYメッツとの3連戦、6月には対NYヤンキースとの交流戦で当地にやって来る。NYジャピオン読者としては憎き敵軍なるも大谷選手の活躍に胸が熱くなる複雑な心境。だが、LAドジャースの「旧姓」はブルックリン。昔はニューヨークのチームだったのだ。

Vol. 1246

人気沸ピックルボールを楽しもう

あちこちに花も咲き乱れ、4月に入りニューヨークにも春が到来した。本号ではこれからの季節、屋外でも楽しめるピックルボールを紹介する。テニスよりも狭いスペースで出来るピックルボールはここ数年、ニューヨークでも人気だ。