インタビュー

映画『ひとりぼっちじゃない』伊藤ちひろ監督×井口理さん

特別インタビュー

映画『ひとりぼっちじゃない』
伊藤ちひろ監督×井口理さん

第22回「ニューヨークアジアン映画祭(NYAFF)」で特別上映された映画『ひとりぼっちじゃない』。人とコミュニケーションを取ることが苦手な主人公を静かに優しく包んだ本作から、伊藤ちひろ監督と主演を務めたロックバンドKing Gnuとしても活躍する、井口理さんに話を聞いた。(取材・文/音成映舞)


─全編日記形式で書かれた小説とキャラクター作り

伊藤:小説を書く段階でコミュニケーションが苦手な主人公を描くと決めて書いていて、日記として言葉を並べたら面白い方法になると思いました。

他者を意識してしまう、自分を過剰に意識し過ぎることでコミュニケーションがうまく取れない。上手なバランスで相手を思いやる、自分を表現するコツがコミュニケーションでは重要なのですが、それがまだつかめていないまま年齢を重ねた主人公。そういう自意識の強い人間を逆算して作り上げたキャラクターが、ススメです。

─映画化への経緯

伊藤:小説を10年近く書いているうちに、きちんと人と向き合うとか、人と何かを作り上げていきたいと思うようになりました。どうすればそれができるかと考えた時に、自らが映画監督をやるという選択が最初に浮かびました。

─主人公のススメ役に井口さんを選んだ理由

伊藤:彼とは一度面識があり、その時は挨拶しかできなかったんです。普段、歌手として素晴らしい表現力があって、きれいな歌声を持っているのに、不思議な空気感を持つ人だなという印象がありました。

映画化にあたり、「ススメができる役者さんは誰だろう?」と思った時、初対面の印象がすごく残っていたことと、行定監督の「劇場」という映画で役者として出演していた演技が好きだったので、脚本の段階で当て書きしました。

─役作りに時間を掛けて臨んだ初主演作

井口:台本を読んで面白いと思った点は、自分も自意識過剰なところがあり、内にあるその自意識を作品に落とし込んでみたいと思いました。ですから、現場に入るまでは事前に「ああしよう、こうしよう」とか、あまり考えませんでした。

今までの作品と全く違うことは、やはり監督と密に話ができたことが大きいですね。台本が届いてから半年くらい猶予があったので、そこで監督とかなり話し込みました。ススメという人間の持つ静けさとか、表に出さない表現が大部分を占めているので、内側に何を持っておくかを相当話した記憶があります。主人公がコンプレックスを抱えているところは、僕もすごく分かるというか…。ススメという役と向き合ったことで、自分とも向き合うことになりましたし、感情をすごく掘り下げられたという意味では良い経験になりました。

─コミュニケーション力の高さで撮影はスムーズに

伊藤:撮影スケジュールは2週間ちょっとと割とタイトなことが最初から分かっていたので、キャストもスタッフも撮影中は集中していました。準備の段階で時間的な余裕もあったため、コミュニケーションをたくさん取れたことが良かったんだと思います。

井口:そうですね。ただ、夏だったので暑かったです。

伊藤:確かに。それでも、撮影自体は本当にスムーズに進みました。

─音楽活動と俳優の両立は今後も継続?

井口:音楽で表現することも俳優で表現することも、結構同じだなと思っています。あくまでも音楽がベースですが、今後も機会があれば俳優も続けていきたいです。

─次回作も井口さんを起用?

伊藤:1作目の本作、2作目の「サイド バイ サイド 隣にいる人」は、観る人の間口がすごく狭い作品になっています。3作目は今、考え中ですが、間口を広げて観客にも受け入れやすいものにしたいと思っています。そして、本作とは全く違う登場人物たちの物語を描きたいですし、井口くんにも出てもらえるなら、ススメとは全く違う役をやってほしいです。彼は確かに演技の経験は少ないですが、いろいろな役ができると思っているので、すごく化けるっていうか、面白くなりそうな気がします。

井口:そうですか? 楽しみです。

 

伊藤ちひろ Chihiro Ito
『Seventh Anniversary』(03)で脚本家デビュー。『世界の中心で、愛をさけぶ』(03)、『春の雪』(05)、『クローズド・ノート』(07)など、行定勲監督とタッグを組んで話題作を発表。その他『スカイ・クロラ』(08)『今度は愛妻家』(10)。近年では堀泉杏(ほりずみあん)名義で『真夜中の五分前』(14)『ナラタージュ』(17)など。原作『ひとりぼっちじゃない』(KADOKAWA刊)は、10年の歳月を掛けて上梓、本作が劇場映画初監督作品となる。

井口理 Satoru Iguchi
1993年生まれ、長野県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。“King Gnu”のボーカルとキーボードを担当。Spotify総再生回数は10億回を突破。22年11月開催の東京ドーム公演では9万人を動員。今年5月から開催されたスタジアムツアー「CLOSING CEREMONY」では、約23万人以上を動員した。また俳優として、『劇場』(20)、『佐々木、イン、マイマイン』(20)、ドラマ『MIU404』(20)などに出演。本作で映画初主演を務めた。


作品紹介

〈ストーリー〉人とうまくコミュニケーションの取れない歯科医のススメが恋をしたのは、アロマ店を営む宮子。しかしながら宮子は部屋に鍵をかけず、突如連絡が取れなくなったりする謎めいた女性だった。自分でも理解できない自分を宮子は理解してくれる。ススメはそれがうれしかったが、自分は宮子のことを理解できていないと思い悩むススメ。ある日、宮子の友達である蓉子が、ススメに宮子の身に起きた驚きの事実を告げる。

【出演】井口理(King Gnu)、馬場ふみか、河合優実、相島一之、高良健吾、浅香航大、長塚健斗(WONK)、じろう(シソンヌ)、盛隆二、他
【監督・脚本】伊藤ちひろ
【企画・プロデュース】行定勲
【原作】伊藤ちひろ
hitoribocchijanai.com

 

NYジャピオン 最新号

Vol. 1273

トランプ大統領による新政権 第2章が遂に動き出す

米大統領選挙は今月5日投開票され、米東部時間6日午前5時30分過ぎに共和党候補のドナルド・トランプ前大統領(78)の勝利が確実となった。一方、民主党候補だったカマラ・ハリス副大統領は6日午後、首都ワシントンで演説し敗北を認めた。支持者らに向け、理想のために戦うことを「決してあきらめない」よう訴え、「この選挙結果は私たちが望んだものではない」としながらも、平和的な政権移譲が必要だと強調した。1期目とは全く異なると言われるトランプ政権2期目の行方はいかに。

Vol. 1272

リトルポルトガル味めぐり

ニュージャージー州ニューアークはポルトガルからの移民とその子孫が多く暮らしていることで有名だ。今週は日本人の舌にも合うポルトガルの味を探訪、併せてリトルポルトガルの成り立ちにも迫る。

Vol. 1271

冬に飲みたくなる、贈りたくなる ウイスキー魅力再発見

ウイスキーといえば、近年ジャパニーズウイスキーが世界で注目を集め、希少価値も上がっているようだ。ウイスキーには、シングルモルトや、ブレンデッド、グレーンなど種類によって味が異なり、銘柄ごとの個性を楽しめるのも魅力だ。そこで今回は、ニューヨークでウイスキーの魅力を再発見してみよう。