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土っぽい独特の風味と食物繊維を豊富に含むことから近年、グルメで健康意識の高いニューヨーカーの間で密かな人気となっているライ麦パン(ライブレッド)。今週は、日本人にはまだまだなじみの薄いライ麦パンの魅力に迫る。(取材・文/加藤麻美)
スカンジナビア料理に欠かせないライ麦パン。イーストビレッジにあるスカンジナビアンカフェ&レストラン「スモー」の共同設立者、セバスチャン・ペレスさんにライ麦パンの魅力について聞いた。
―スカンジナビア地方のライ麦パンの特徴は?
色が濃く、密度の高いパンです。それに植物の種がたくさん入っているので、土っぽいというかナッツの風味が強いのが特徴ですね。僕の故郷、デンマークではライ麦パンのことを「ルブロ(Rugbrød)」と呼び、スターター(発酵種)にサワードウ(左下の囲み参照)を使っているので、ほのかな酸味とわずかな塩味が感じられます。
―スカンジナビア地方の人たちはライ麦パンを常食しているのですか?
デンマークでは朝・昼・夜と1日の全ての食事で食べるのが一般的です。スープやサラダ、メインディッシュのサイドに添えますが、さまざまな具材をライ麦パンにのせて食べるオープンサンド「スモーブロー(Smørrebrød)」がなんといっても有名です。スカンジナビア料理というと、このスモーブローを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
日本人とお米が切っても切り離せないように、ライ麦パンは僕たちの食文化の核となるものです。
―ここ数年、ニューヨークにもスカンジナビア地方発のカフェ&ベーカリーが増えてきましたが、ニューヨーカーに人気の理由は何だと思いますか?
「デニッシュ」と呼ばれ、世界中の人たちに親しまれている菓子パンはデンマークが発祥です。世界の幸福度ランキングで常に上位に番付されるデンマークでは、「ヒュッゲ(心地良いひととき)」を大切にする独自の考え方があり、くつろげる空間でデニッシュをつまみながらコーヒーを飲む習慣が広く浸透しています。また、デンマークの人たちはレストランで時間をかけてランチを食べるよりカフェでの軽食を好む傾向があります。
ニューヨーカーにウケているとしたら、「隙間時間にホッとひと息したい」「おいしいランチは食べたいけれど、高いお金は払いたくない」人が増えているからだと思いますね。
―「スモーベーカリー」で焼いているライ麦パンの材料やレシピは?
100%ライ麦粉にオリジナルのサワードウスターター、ビール、モルトシロップ、ヒマワリやカボチャ、亜麻仁(フラックスシード)、粗刻みしたライ麦が材料です。塩も加えていますよ。スターターを作り、生地を発酵させてローフ型に入れ、オーブンで時間をかけて焼き上げます。オーブンから出した直後は、ライ麦パンの中は煮えている状態なので、食べ頃になるまで最低でも一晩は寝かせます。スライスできるようになるのは翌日。おいしく食べられるのは24時間後です。厳選した材料で手間をかけ時間をかけて作るライ麦パンは、僕たちの分身のようなものです(笑)。
―おすすめの食べ方を教えてください。
パンそのものの味を楽しみたいなら、無塩バターをたっぷり塗ってシーソルトをほんの少し振りかけてトーストしてみてください。味、香り、食感が最高ですよ。スモーブローのトッピングも、僕はスモークサーモンやアボカドが好きですが、決まりなんてありません。好きなものをのせちゃえばいいんです。
お話を聞いた人
セバスチャン・ペレスさん
デンマーク生まれ。
2019年、スカンジナビア料理のエッセンスを加えたカジュアルな料理とデンマーク産ビール、オリジナルカクテルを提供するカフェ&レストラン「スモー(SMØR)」をシェフのセバスチャン・バングスガードさんと共同で開業。
今年の夏には同店の2軒隣にベーカリーもオープン。
サワードウスターター(発酵種)とは?
パンを膨らませる酵母には、リンゴやブドウに水を加えた発酵液・天然酵母と、酵母菌を濃縮して乾燥させたドライイーストの2種類あるが、天然酵母よりさらに歴史が古く、紀元前約1600年のエジプトまでさかのぼるのが「サワードウ」と呼ばれる発酵種(スターター)だ。少量の小麦粉と水を混ぜ合わせ、24時間ほど寝かせ、その一部を取り出して新しい小麦粉と水と混ぜ合わせるプロセスを2~3週間毎日繰り返すと、微生物が十分に活性化し、発酵種が完成する。パンデミック中はドライイーストが品薄になったり自宅で過ごす時間が多くなったことを背景にサワードウを使ったお菓子作りにハマる人が急増。特にパン作りはSNSでも新しいトレンドになっている。
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