スペシャリストに聞く

ジア・キム弁護士に聞く ③メディケイド

今月のテーマ:老後の備え

米国で老後を過ごすことを考えている人は、「メディケイド」のことを理解し、受給できるよう、対策を講じよう。前号の「信託」の知識を踏まえて、専門家が制度の仕組みとワンポイントアドバイスを解説。

※この記事は2019年10月18日の記事を再掲載しています。

 

 

Q. メディケイドとは何ですか?

A.

医療費が日本に比べて非常に高い米国では、65歳以上の高齢者や障害者向けの社会保険制度、メディケア(Medicare)があります。連邦政府が運営しているメディケアは、基本的な医療措置は保障しますが、例えば介護サービスや高齢者向け施設を利用するような、⻑期医療(Long-term Care)は対象外です。一般の健康保険でも、長期治療費はサポートしていません。

しかし現在、アメリカで暮らす70歳以上の約50%には、この⻑期医療が必要だといわれています。この利用費は、安くても1カ月で約1万ドルと、決してばかにできない出費です。

そこで注目すべきは、メディケイド(Medicaid)です。これは、100%の医療費を保障する、政府による医療扶助事業です。

メディケイドを受給していると、例えばアルツハイマーを患っている高齢者には、介護士を派遣してくれます。アメリカで老後を過ごす人にとって、メディケイドは必要不可欠な制度なのです。

また、永住権保有者でも受給可能です。

 

Q. メディケイドの受給資格は?

A.

長期治療費を保障する、65歳以上の高齢者、または障害者のためのメディケイドは、低所得者が対象の一般のメディケイドと受給資格が異なります。

具体的には、高齢者向けのメディケイドであれば、個人の場合、毎月884ドル、夫婦で合計1300ドル以下の収入で受給可能です。(2021年のニューヨーク州の基準)。

また、所有する財産に制限があります。個人なら1万5900ドル、夫婦は2万3400ドルまでの財産の所有が可能です。

ただし、条件から免除される財産もあります。例えば自動車1台、エクイティー(物件の純粋価値)が9万6000ドル以下の住宅などを所持していても、メディケイドの申請が可能です。

 

Q.どんな受給対策がありますか?

A.

メディケイドの受給資格をクリアするためには、全ての財産を条件に該当するまで、自分の贈与にするのも一つの方法です。

前号で話した信託の一種、「メディケイド信託」を作ることで、自分の財産を合法的に守りながら、メディケイドを受給することもできます。

また月所得が基準より高くても、所得信託(Income Trust)というものを作成して、受給対策をすることもできます。

 

Q. 信託を作ってメディケイドを受給した場合、他にどんなメリットがありますか?

A.

例えば、受給者個人の介護費が3年間(長期治療利用の平均期間)、毎月1万ドルかかり、それをメディケイドが計36万ドル、負担していたとします。

すると、もしその人の死亡時に遺産が残った場合、36万ドルまでは政府に徴収されてしまいます。

しかし、信託を作っておけば、自身の財産は存在しない(=信託内にある)とみなされるので、この請求はありません。これが、信託を作ることをおすすめする理由です。

また前号でお話したように、信託を作ることで長期間、高コストのプロベートから、家族を守ることもできます。

〈おことわり〉

当弁護士事務所は、掲載記事の内容に関して、一切の責任を負いかねます。詳細は各専門家にご相談ください。

 

 

 

 

 

 

 

ジア・キム弁護士

ニューヨーク州、ニュージャージ州弁護士。
ハンプシャー大学を経て、フォーダム法科ロースクール卒業。
米国および国際エステートプランや、メディケイド財産保護計画などを専門に担当。
英語や、日本語で相談可能。

 

 

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