「離婚後、子供を日本に連れて帰る場合の注意点は?」弁護士が考える”ハーグ条約”

今月のテーマ:アメリカでの離婚

国際結婚では、夫婦それぞれが異なる国の国籍を有しているために、離婚後の子供の行き先が争点になることがある。知らずに日本に連れて帰って、国際問題になることも。


 

Q. 離婚後、子供を日本に連れて帰る場合の注意点はありますか?

A.

子供の保護に関する国際的な採択に、ハーグ条約というものがあります。父親と母親の双方の合意なしに、片方の親が子供を一方的に居住国から出国させる(もう片方の親から物理的に引き離す)ことを制限するものです。

これは子供が、異なる生活基盤や言語・文化環境に適応する負担を軽減することが目的です。どちらの親の元で生活するか判断する際、まず元の居住国でそれを決めるべきだという考えに基づきます。

片方の親の承認なしで国外に連れ出すことを「連れ去り」、あらかじめ取り決めた期間を居住国外で子供と過ごし、期限を過ぎて子供の帰国を妨害することを「留置」といいます。

例えば、父親が合法的にアメリカに在住しており、離婚を申請した妻がビザを失ったために日本に帰るとします。もし父親の了承なしに勝手に子供を連れて永久帰国したら、父親は子供の返還を申し立てることができます。ただし返還されるのは、子供が元々居住していた国であり、必ずしも申請者の元に返還されるわけではありません。

Q. 日本に戻った子供の返還は、申請すれば必ず認められますか?

A. 

日本国内における申請については、日本の裁判所が請け負うことになります。次の条件(一部)に当てはまるなら、子供を元の居住国に強制返還させることはできません。

▽子供が16歳以上▽子供が日本国内におらず、所在地不明

▽子供がハーグ条約を批准していない国にいる

▽申請者がその居住国の基準で、子供の監護権を有していない、あるいはこの連れ去り(または留置)が監護権の侵害とは見なされない

日本はハーグ条約に入っています。裁判所は公的には中立である一方、一概には言いがたいですが、日本国籍の子供を海外に送るという判断に至るケースはまれではないでしょうか。日本人の親が子供を日本に連れ帰った場合、子供を日本国外に戻すことは、90%の確率で困難という見方もあります。

一つ留意したいのは、アメリカで育てた子供を日本に連れて帰っても、子供がアメリカへの帰還を望む可能性があること。生活様式や文化の違いになじめなかったり、特にハーフである場合、学校でいじめに遭う恐れもあります。子供が元の居住国に戻りたいと訴えて、親が折れるケースも珍しくありません。

Q. 子供を連れ去った、あるいは留置したと見なされると、どうなりますか?

A. 

元の居住国にいる片方の親から養育費が支払われていた場合、受け取ることができなくなります。その国への入国も永久的に禁止されます。また返還申請がなされた場合、国外逃亡を避けるために、裁判所がその親と子供のパスポートを一時差し止めることがあります。

もし片方の親がアメリカ人であった場合、子供はアメリカ国籍を有するので、子供はその後もアメリカに入国・居住できます。

なおアメリカで結婚している場合、離婚手続きができなくなります。日本で結婚手続きを行っていないのなら、離婚における社会保障が受け取れないという点も注意です。

〈おことわり〉

当社は、掲載記事の内容に関して、一切責任を負いかねます。詳細は各専門家にご相談ください。

 

ウェイン・スタンレイ弁護士

カリフォルニア州立大学フルトン校および同校大学院を経て、オーストラリアのマッコーリーロースクールを卒業。
2001年よりニューヨーク州弁護士。
民事法、刑法、家族法、不動産法、移民法など。
相談から裁判所同行まで日本語で可能。

Wayne and Wayne Law Office

3 Berachah Ave.
Nyack, NY 10960
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