高鳥会計事務所に聞く③対日本の税金制度

今月のテーマ:日米の税金制度

米国で暮らしつつ、日本でのステータスは少し曖昧(あいまい)にしている…なんていう話もよく聞く。税金制度が異なるだけに、少しその特殊性を理解しておきたい。税務のプロが、問題点やポイントを解説。

Q. 米国在住の日本人が、日本で相続した財産を売却する際の注意点を教えてください。


A.

本来的には日本にある不動産を米国居住者が売却する場合、日米どちらでも申告が必要になります。

日本申告の売却損益の計算において、売却原価は被相続人(亡くなった人)の取得価格を引き継ぎます。ただし、被相続人の取得価格が分からない場合、売却原価は売却価格の5%しか認められないこともありますので、あらかじめご注意ください。

なお、売却日が相続税の申告期限から3年以内の場合、納付した相続税額の一定割合を売却原価に加算して、所得税を軽減することができます。

一方、株式の売却では、居住国での課税が原則です。ですので、米国居住者の相続した株式が上場株式の場合、基本的に、日本での申告納税は必要ないと考えられます。

 

 

Q. 米国在住であると同時に、日本に住民票を置いたままにしていると、何かトラブルに発展することはありますか?


A.

本来的には、日本に住所がないのであれば、住民票を抜くのがよいです。

ただ、住民票を置いたままという事実のみを持って、日本居住者と認定されて課税される可能性は低いと考えます。

これは、住民税の課税は、基本的に「住民票があるかどうか」で判断されますが、所得税や相続税など国税は実態で判断されるためです。

具体的には、住居、家族、職業、滞在日数などの客観的な状況に基づく、総合判断となります。

なお、日本に住民票を置いたままの場合、国民健康保険や国民年金の加入義務を負う点は、ご注意ください。

居住者か非居住者かの判断は、トラブルが発生しがちな論点ですので、日本での課税に不安がある人は、事前に専門家に相談することをおすすめします。

 

Q. 日本居住者が米国で保有する資産に関して、どのような情報が日本の税務署に提供されるのでしょうか?


A.

日本居住者の米国口座で発生した利子、配当、キャピタルゲイン、米国不動産から発生した賃料、そしてキャピタルゲインなどの取引情報が、IRSから日本の税務署に提供されます。

また、税務調査においては、税務署がIRSに、調査対象者の米国資産の情報を個別に提供要請することもあります。

一方、米国は税務当局間で非居住者口座の残高情報などを共有する制度(CRS=Common Reporting Standard)には参加していませんが、日本居住者の米国で発生した取引情報を日本に提供しています。

税務署は提供を受けた情報に基づいて、税務調査の対象者を選んでいます。米国で保有する資産については、日本側でも確定申告や国外財産調書など、適切に対応するのがよいと考えます。

 

〈おことわり〉

※当社は、掲載記事の内容に関して、一切責任を置いかねます。詳細は各専門家にご相談ください。

※この記事は、今年春に行われた取材を基に構成しています。新型コロナウイルス感染拡大による制度変更などについては、政府の最新情報を常にご確認ください。

 

高鳥拓也会計士

2001年、京都大学経済学部経営学科卒業。
IPトレーディングジャパン、アルプス電気などを経て、2014年に高鳥公認会計士事務所を開業。
日本と海外での税務の仕組みを解説する「海外送金.com」も運営。
メールやビデオ通話で相談受付可能。

 

高鳥公認会計士事務所
東京都港区赤坂8-5-40
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