食ビジネス古今東西

第19回 寿司とラーメンと漫画の三角関係

当コラムでは、食ビジネス戦略のスペシャリスト、釣島健太郎が米国食ビジネスを現在、過去とさまざまな観点から検証。その先の未来へのヒントやきっかけを提示していく。


寿司がSushiへと変化、発展していく流れが出来始めたのは1970年代前半頃であった事はよく知られている。航空便が発達した事で日本から氷詰めの鮮魚を運べるようになった事やLAの港湾ストライキで現地のネタを使う必要性が出た事(具体的にはアボガド。カリフォルニアロールに発展した)等がこの時期であった。

Sushiはその後80年代に一気に全米へと広がっていった。それ以降Sushiの次は何か? と待ち望まれたが、90年代、2000年代前半と中々その次の新たな日本食の流れはまだ出来なかった。個店単位での取り組みはされていたが、例えば蕎麦は健康的だが、大衆を捉えるまでに至らず、ラーメンは「猫舌のアメリカ人は熱いスープを飲めない」と広がりを見せなかった。

ラーメンブームの誕生

そのような状況が暫く続く中、次のブームが突然やってきた。今の我々はよく知っている「ラーメンブーム」である。上述の通り一度はブームを作れなかったラーメンが突如として表舞台にやってきた。2000年代上旬まで、ブームとは程遠いと思われたラーメンがなぜ急に広がったのか、そこには食とは違う、別のビジネスの発展が大いに関係していた。

07年、LAを中心に西海岸で少しずつラーメン人気が聞こえてきた。この年、私はニューヨークのフードショーに出展し、試食をラーメンにした。「猫舌のアメリカ人はラーメンを食べれられない」という疑心暗鬼の中、ブースを設置し、試食を開始した。15年前、フードショーでラーメンを知っている人は半分以下だった。皆が知らないラーメンを試食してもらっても、それが広がっていく事は全く想像出来なかった。

しかし試食中、ラーメンを知っている人から面白い回答が返ってきた。「Do you know ramen? (ラーメン知ってる?)」「Yeah, I do. It’s what Naruto eats, right? (知ってるよ。ナルトが食べているやつでしょ?)」ナルトとは当時アメリカで一世を風靡していた日本の忍者アニメ、漫画で、ストーリーの中で主人公ナルトはラーメンが大好物なのである。

ラーメンを食べた事はなくても、全く知らないもの、ちょっと変わったもの、ではなく、ナルトを通して既に一部のアメリカ人の身近なものになっていた、と言えるだろう。

漫画ブームの発端とは!?

アメリカでのアニメと漫画の広がり方は若干違うが、ここでは漫画の広がりにもフォーカスをあててみよう。

漫画の広がりは上述したSushiブームの後を埋め、1990年から2000年代に広がっていった。

80年代、漫画はオタクが読むもの。コミックストアでしか販売されておらず、一般のアメリカ人は足を運ばない。また、大きな相違点として、日本の漫画は本を開く方向が違う。その他、効果音や、日本独特の表現も多く、訳すのにコストもかかるし、広がらない条件が多かった。しかし90年代になると漫画をアメリカ基準に合わせようとする会社が現れ、反転印刷されたものが出版され始める。反転印刷は本を開く方向をアメリカ基準にした。この頃から『らんま1/2』や『ポケットモンスター』等が少しずつヒット。コミックストアだけでなく、ニュース・スタンドという、新たなチャンネルが出来た。

2000年代に入ると逆に本物の漫画をそのまま英語で読みたい、という要望が増えていく。英訳でもなるべくオリジナルの表現を尊重する事への評価が高まっていった。反転印刷という現地化を経て、オリジナル、本物に対する要求が高まった。日本と同じ右開きの漫画を出版する事でコストを下げられ、大型書店チェーン Borders Group(同社は残念ながら2011年に破綻)が漫画を店舗で販売する事を決定。このような過程を経て、多くの一般市民が漫画を日常的に目にするようになっていった。この頃、漫画はMangaへと発展していった。

その他にも、ラーメンスープが普及したり、実態的な要因は沢山あるが、漫画の普及がラーメンに与えた影響は決して小さくない。ラーメンというハードと漫画というソフトが融合したブーム。これが終わりではなく、今後また新たな発展を遂げていくであろう。

 

 

 

釣島健太郎
Canvas Creative Group代表

食ビジネスを中心とした戦略コンサルティング会社Canvas Creative Group社長。
「食ビジネスの新たな未来を創造する」をコンセプトに、現在日本からの食材・酒類新事業立ち上げ、現地企業に対しては、新規チャネル構築・プロモーションから、貿易フローや流通プロセスの最適化、物流拠点拡張プランニングまで、幅広くプロジェクトを手掛ける。
canvas-cg.com

 

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