食ビジネス古今東西

第16回 ワールドカップ世界代表「日本のだし」

当コラムでは、食ビジネス戦略のスペシャリスト、釣島健太郎が米国食ビジネスを現在、過去とさまざまな観点から検証。その先の未来へのヒントやきっかけを提示していく。


歴史に残る大激戦で幕を閉じたサッカーのワールドカップ。日本代表は目標のベスト8以上には残念ながら届かなかったが、優勝経験国のドイツとスペインを破り(日本がワールドカップ優勝経験国を破ったのは初)、こちらも歴史にも記憶にも確かな一ページを残した。この結果を得る中で日本人選手の献身性が話題の一つとなっていた。強豪国が相手の日本にとっては守備に割く時間が増え、攻撃の時間が減っても全体最適を実現する為に、個々の役割を徹底的に守る献身性である。日本料理でもこのような献身的な役割の存在がある。その存在とは出汁、だしである。このだしがあるからこそ、日本料理の今の地位があるとも言える。

和食における献身性

だしとは何か。だしは鰹節、昆布等を煮出し、料理のベースとなる旨味成分からなる汁である。旨味成分とは科学的にはアミノ酸だ。鰹節はイノシン酸、昆布はグルタミン酸というアミノ酸が旨味となっている。だしの役割を理解するにはだしがないとどうなるか、を考えた方が分かりやすい。味噌汁においては、塩気が強すぎるスープになる事は想像出来るだろう。だしのない煮物は醤油や砂糖の味わいがストレートに刺さってくるであろう。どちらもだしがなくても調理されているので食べられるが、だしが入る事によって味のふくらみ、深みが増し、高いレベルでのバランスが実現されていくのである。

だしを代表する素材と言えばやはり鰹節と昆布である。この鰹節と昆布が料理における献身性の高い素材で、日本を代表するものである。

フレンチ、イタリアンではだしに相当するものとしてブイヨンがある。ブイヨンは主に肉や野菜を一日程度煮詰めてその旨味成分を抽出するが、鰹節、昆布においては煮出すだけですぐに旨味成分を抽出する事が出来る。(昆布は一日常温の水に浸すが、一煮立ちで抽出が可能)鰹節、昆布がすぐに旨味成分を抽出出来る理由は、製造側で長期間に及ぶ工程を経てきているからである。ブイヨンの煮詰めに相当する工程を鰹節、昆布は数カ月かけて行っている。一般の市場には表に出てこない、この献身的な工程を経ている事で料理人の方々がすぐに最高級の日本料理を調理できるのである。

研究の末に編み出した旨味の製法技術

鰹節は鰹を水揚げの後、「蒸す(煮熟)」、その後に「燻す(培乾)」を何度も繰り返す事で、旨味成分が引き出されていく。この燻すを一カ月近く行い、「荒節」と言われるだしとして使用される鰹節になる。この蒸すと燻すを最適な環境で適切な回数行わないと良いだしにならない。特に燻す過程で鰹の奥に隠れているイノシン酸が表面に出てくる準備をする。この下準備がある為、我々が調理をする時には数分の煮沸でだしがとれる。(因みにここからカビ付けという工程を更に加え、半年近く時間をかけるのが「本枯れ節」で、その希少価値からこちらはだしより料理の素材として使われる)

昆布も同じように数カ月におよぶ製造工程を経ている。昆布を採取してから主に天日乾燥を三カ月程行う。水揚げされた直後の昆布では旨味成分を抽出する事は出来ない。数カ月に及ぶ乾燥工程を経る事で水分を徐々に飛ばし、昆布の中に存在している旨味成分グルタミン酸が表面に出る準備をする。鰹節と同じく、数カ月に及ぶ献身的な工程を経ているので、料理において最高のだしがとれる。スーパーで並んでいる鰹節や昆布は期間の多少の差はあっても全てこの工程を経てきている。製造現場で多くの時間、労力、研究が行われ、日本特有のだしが製造されることで、料理人の皆様が作る最高傑作の料理一品一品の「個」が輝く。料理において、日本には献身的なだしを最大限に表現できる「個」も存在しているのである。次のワールドカップでは日本代表はだしの要素を更に磨きをかけ、より洗練された個も完成させ、次回は更に新しい景色を見せ、歴史の一ページを刻んでほしい。

 

 

 

 

釣島健太郎
Canvas Creative Group代表

食ビジネスを中心とした戦略コンサルティング会社Canvas Creative Group社長。
「食ビジネスの新たな未来を創造する」をコンセプトに、現在日本からの食材・酒類新事業立ち上げ、現地企業に対しては、新規チャネル構築・プロモーションから、貿易フローや流通プロセスの最適化、物流拠点拡張プランニングまで、幅広くプロジェクトを手掛ける。
canvas-cg.com

 

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