食ビジネス古今東西

第13回 貿易摩擦を乗り越える? 食の現地生産

当コラムでは、食ビジネス戦略のスペシャリスト、釣島健太郎が米国食ビジネスを現在、過去とさまざまな観点から検証。その先の未来へのヒントやきっかけを提示していく。


歴史を少しさかのぼるが、日本の自動車業界が1980年代にアメリカで現地生産を開始したことをご存知の方は多いかと思う。当時は「日米貿易摩擦」の時代で、アメリカの自動車会社の社員がおので日本車を叩き割っている映像が今でも印象的である。

アメリカでは小型車の人気が高まり、性能の高い日本車がうなぎ上りに売れたが、アメリカの自動車会社はその対応に遅れたりで摩擦にまで発展した。

しかしその後、日本の自動車各社はアメリカで現地生産を開始し、アメリカ人を雇用し、アメリカに根付いたビジネスを展開することになった。

針を進めて2022年の現在、日本の自動車メーカーは全米で約11万人を直接雇用するアメリカの一大産業になった。自動車に限らず、家電や精密機械の各企業もアメリカでの現地生産に乗り出していき、今の日本ブランド(日本の製品は性能が良く、価値が高いというブランド力)の礎を築いたといっても過言ではないだろう。

現在の子供たちには日本といえばアニメ、ゲーム、キャラクター、すしなども有名だが、あの頃の摩擦を乗り越えて今があることを覚えておきたい。

 

のちの日本食ブームを生んだ食品工場

さて食品ビジネスの現地生産も時代の流れとともに発展している。日本企業のアメリカ最初の食品の現地生産工場は日清カップヌードルで、1972年にカリフォルニアに完成した。日本でのカップヌードルの販売開始が71年で、その翌年にアメリカに工場が建設されたということは実に驚きである。

その後カップヌードルは、世界を代表するインスタント食品に発展し、累計500億食を販売した。もはや20世紀最大の発明といっても大げさではないかもしれない。

今ではアメリカ人のほとんどが日常的に使っているアジア、日本を代表する調味料と言えば、しょうゆだが、カップヌードル工場の翌年、73年にキッコーマンがウィスコンシン州にしょうゆ工場を設立したのが最初である。その後94年にヤマサ醤油がオレゴン州に工場を建設した。しょうゆの現地生産が日本食の発展に大きく貢献したといえるだろう。

米国にも続々広まる日本の酒造

2021年度の日本からのアメリカへの輸出品目第1位はアルコール飲料で238億円だったが、その中でも主力商品の一つが日本酒である。日本酒はこのうち96億円となっており、日本からは純米吟醸、純米大吟醸など味、香り共に品質の高い商品が数多くアメリカに渡っている。

純米吟醸、純米大吟醸と一言でいってもその味、香りは千差万別であり、特にここ最近は技術の進歩が著しい。これらが地酒としてアメリカで広まっていったのは2000年代に入ってからである。

日本酒のアメリカでの現地生産は1900年初頭からハワイで始まっていたが、日本企業が本格的に生産を始めたのは大関酒造が初めてで79年。その後宝酒造が83年、月桂冠が89年と続いた。その後も桃川酒造(現SakeOne)が97年、八重垣酒造が99年に生産を始めた。桃川酒造のみオレゴン州だが、その他の全ての工場はカリフォルニア州で西海岸となっている。これらの展開が2000年代の地酒ブームの土台となったといえるだろう。

この日本酒のアメリカ現地生産だが、2010年代に入り、アメリカ現地の自己資本による工場開設が相次いでおり、新たな未来を描き始めている。その数は年々増えており、現在アメリカ全体で約30の酒蔵があるといわれている。テネシー州、ケンタッキー州、ノースカロライナ州、フロリダ州など全米各地で酒蔵が開設している。

ニューヨークではBrook-lyn Kuraが17年に、Kato Sake Worksが19年に工場を開設した。Brooklyn Kuraは21年に新潟地酒の大手八海醸造と長期パートナーシップ契約を結んだ。

日米で新たな日本酒の可能性が広がっていき、貿易摩擦を乗り越え、食を通して新たな友好関係が生まれていくことを期待している。

 

 

 

釣島健太郎
Canvas Creative Group代表

食ビジネスを中心とした戦略コンサルティング会社Canvas Creative Group社長。
「食ビジネスの新たな未来を創造する」をコンセプトに、現在日本からの食材・酒類新事業立ち上げ、現地企業に対しては、新規チャネル構築・プロモーションから、貿易フローや流通プロセスの最適化、物流拠点拡張プランニングまで、幅広くプロジェクトを手掛ける。
canvas-cg.com

 

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