食ビジネス古今東西

第10回 食の新産業「フードテック」と寿司ロボット

当コラムでは、食ビジネス戦略のスペシャリスト、釣島健太郎が米国食ビジネスを現在、過去とさまざまな観点から検証。その先の未来へのヒントやきっかけを提示していく。


食ビジネスの中でもレストランなど飲食ビジネスはIT化、最新テクノロジーの普及が進みにくいといわれている。ホスピタリティー業界といわれるように、人と人との触れ合いが大切であったり、現場で毎回違った対応が求められたりするため、スタンダード化するのが難しい事などがあげられる。しかし食ビジネスの分野で少しずつ、確実に存在感を増している新産業がある。フードテックといわれる新産業である。この分野は、世界で700兆円の市場規模があるといわれている。フードテックは現在では代替プロテインから食料品配達、IoT家電まで幅広く用いられているが、これから数年の間に領域ごとに細分化されていくと考えられ、今はまさに黎明期と言えるだろう。

期待される
フードテックの流れ

食ビジネスにおいてテクノロジーの活用は川上である食品工場での活用が中心だった。しかしそんな流れが大きく変わったのが2011年。元マイクロソフトの最高テクノロジー責任者のネイサン・ミアボルド氏が食を科学の観点から分析した本「Modernist Cuisine(モダニスト・キュイジーヌ)」を発行し、その内容を世界的講演会TED Conferenceで発表した時である。伝統的に料理人は「見るよりも慣れろ」という風習が世界中であり、見習いで入った職人が時間と年数をかけて技を習得していく特殊な世界であった。

しかしネイサン・ミアボルド氏は料理を化学、物理学の観点から徹底的に研究した。特注した鍋を半分に切り、ブロッコリーを蒸す時の現象を膜状凝縮など科学的観点から説明した。ここでなぜ流れが変わったのか。多くの科学者達が料理の科学的アプローチに賛同し、「フードテック」の流れが出来上がり、多くの投資が集まるようになったのである。

コロナ禍を経て増す
寿司ロボットの需要

日本食ビジネスにおいて、このフードテックの先駆けともいえるのが寿司ロボット。日本では回転すし店での取り扱いが注目を浴びてきたが、米国でもその存在感が確実に大きくなってきている。米国では寿司ロボットの先駆者である鈴茂器工のSuzumo、独自で開発した寿司ロボットを20年前から米国に集中して販売を拡大した、オーテック社が有名である。オーテック社によると、同社はコロナ禍でも業績を伸ばし、コロナ禍が終わろうとしている今も新たな需要拡大に備えるよう取り組んでいる。

寿司ロボットがもたらすメリットは多くあるが、現在の経済状況を鑑みると人手不足を補うツールとしてますます重要性を増している。〝Great Resignation〟(大退職、大離職。自分の生き方、働き方など価値観を優先し、それに見合わないと退職という選択肢を取る人が増えている現状を表現)という言葉が人事専門家で作られるほど、人材を確保する事がますます容易でない時代になった。売上を上げたい、成長を実現したいと考えても、人材が確保できずその実現が難しいという時代である。寿司職人によるプロフェッショナリズムと寿司ロボットの共存を考えてみる時代である。例えば、店内飲食などコアとなるビジネスは今まで通り寿司職人による寿司を提供するが、ケータリングなど新たなビジネスを広げたい場合は寿司ロボットを使用して、人材不足を補う事などが考えられる。コロナ禍が我々に教えてくれた事の一つが、可能な限り販売チャネルを複数持つ事である。今までの伝統的な店内飲食だけではない、新たな販売チャネルを日頃から準備していく事が重要である。どのようにテクノロジーを取り入れられるかを常に考え、シミュレーションしてみてはいかがだろうか。

コロナ禍を経て、多くの方々の価値観も変わり、「寿司ロボット=かっこいい」という価値観も生まれている。変わらない(自分の今のステータス、名声など)ためには変わり続けなければならない。

 

 

 

 

 

釣島健太郎
Canvas Creative Group代表

食ビジネスを中心とした戦略コンサルティング会社Canvas Creative Group社長。
「食ビジネスの新たな未来を創造する」をコンセプトに、現在日本からの食材・酒類新事業立ち上げ、現地企業に対しては、新規チャネル構築・プロモーションから、貿易フローや流通プロセスの最適化、物流拠点拡張プランニングまで、幅広くプロジェクトを手掛ける。
canvas-cg.com

 

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