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当コラムでは、食ビジネス戦略のスペシャリスト、釣島健太郎が米国食ビジネスを現在、過去とさまざまな観点から検証。その先の未来へのヒントやきっかけを提示していく。
日本食はすしやラーメンを中心に、世界でますます広まっているが、デザート、スイーツにおいても日本は世界でトップレベルの味、品質、技術を持っているといっても過言ではないだろう。しかし米国での日本食デザートの普及ということに目を向けると状況は大きく異なる。
個人オーナー店の多い日本食レストランでは、オーナーがメインのシェフとなるお店も多く、デザートは大きな手を掛けずとも提供できるメニューが好まれる傾向にあり、メニューの選択肢が少なかった。
2000年代後半には、日本食ビジネスの高級化に合わせてパティシエを雇うなどデザートメニューを強化する動きが出てきた。この時期から米国の日本食レストランで徐々に市民権を得ていったデザートメニューがある。それは「餅アイスクリーム」だ。この餅アイスクリーム、米国で市民権を得て独自の進化を遂げたという意味では、デザート版カリフォルニアロールともいえる優れた商品なのである。
東西のブランドが続々商品化で市場が拡大
餅アイスクリームの初代商品、それはロッテの「雪見だいふく」だ。1981年に日本で発売され現在でも人気を誇るロングセラーだが、日本では雪見だいふくに続く商品があまり出回っていないのに比べ、米国ではさまざまな企業が切磋琢磨して新商品を次々と開発している。
米国での餅アイスクリーム市場の開拓者は、ロサンゼルスで和菓子屋として100年以上の歴史を誇る「Mikawaya(三河屋)」である。70年に27歳で同社の社長に就任した4代目社長フランシス橋本氏が、夫のジョエル氏と長年試行錯誤を繰り返し、94年頃、餅アイスクリームの製品化に成功した。
現在は日系やアジア系では「Mikawaya」、米系では「My/Mochi Ice Cream」というブランドが多くのスーパーマーケットで販売されている。ホールフーズ、ラルフズなど全米展開するスーパーで、「My/Mochi」専用の冷凍庫を目にしたことのある方もいるのではないだろうか。2015年に同社は橋本家から非公開投資会社に売却され、さらなる発展を目指している。
その後ニューヨークではミツワの和菓子屋「伊勢屋」が餅アイスクリームの生産にシフトし、1990年代後半に商品化に成功。アリスコーポレーションとして現在も、アジア系マーケットで大きな存在感を発揮している。
時期を同じく、ロサンゼルスでは「前田園」が、続いてハワイではバビーズ社が商品化に成功。バビーズはその後投資家の資本を得て、アリゾナに本拠地を移し、全米に販売網を構築している。
近年では日本の製菓業大手「井村屋」(井村屋は乳製品フリー品)、中華系の「Sweety Mochi」なども参入している。またニューヨーク発の「Mochidoki」は独自のフレーバー、高級化戦略を展開。現在マンハッタンに2店舗、餅アイス専門ショップを開いている。フレーバーも20種類以上をそろえ、その商品数は他社に追随を許さない。このようにプレーヤーが増えることで市場が活性化され、ビジネスがさらに広がっていくと考えられている。
デザートの定番として新フェーズへ
米国ではスーパーなど小売市場だけでなく、日本食を中心にレストラン市場でもその取扱いが大きく広がったことが特徴的だ。2000年代前半まではレストランのデザートといえばアイスクリームのみというお店も多かったが、餅アイスクリームの登場は日本食レストランのデザート市場を新しいフェーズに進めた。
日本の料亭では食事の後、軽く爽やかな水菓子が出ることが多い。アメリカではその役割を餅アイスが担っているといえるだろう。餅の優しい食感と冷たいアイスクリームが見事にブレンドした和洋折衷のデザートなのである。濃厚でどっしりとしたケーキなどと比べると日本食レストランにはぴったりのデザートメニューとなった。
一般的な売れ筋商品は抹茶、マンゴー、イチゴ、バニラ、あずきなどである。フレーバーを見ても和洋折衷な味わいが可能で幅広い対応ができることも米国で広まった重要な要因である。
それぞれのメーカーで餅の食感、アイスクリームの味わいが違うので、皆さんのお気に入りの商品をぜひ見つけていただきたい。
釣島健太郎
Canvas Creative Group代表
食ビジネスを中心とした戦略コンサルティング会社Canvas Creative Group社長。
「食ビジネスの新たな未来を創造する」をコンセプトに、現在日本からの食材・酒類新事業立ち上げ、現地企業に対しては、新規チャネル構築・プロモーションから、貿易フローや流通プロセスの最適化、物流拠点拡張プランニングまで、幅広くプロジェクトを手掛ける。
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