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当コラムでは、食ビジネス戦略のスペシャリスト、釣島健太郎が米国食ビジネスを現在、過去とさまざまな観点から検証。その先の未来へのヒントやきっかけを提示していく。
「アメリカを代表する食事は何ですか?」と聞かれて一番最初に頭に浮かぶのはハンバーガーではないだろうか。誰もが知っているであろうマクドナルド、ウェンディーズにバーガーキング。近年人気のプレミアム感を売りにした、イン・アンド・アウト、シェイクシャックなどアメリカ発のハンバーガー店は次から次に頭に浮かぶほどあり、存在感が大きい。ハンバーガーはアメリカの国民食であろう。
歴史を巻き戻して100年前の1921年。ほとんどのアメリカ人がハンバーガーを知らなかったことはご存知だろうか。牛肉のミンチを食べるという習慣がまだなく、今のような大手チェーン店もなかった。アメリカで最初にハンバーガーのチェーン展開したのはホワイトキャッスル(現在全米に400店舗ほど展開)で100年前の21年設立だ。今年は「ハンバーガー100周年」と呼んでもいいかもしれない。
台頭してきたプラントベース肉
ここ数年、新たな動きがハンバーガーに起きている。「Plant Based Meat」、植物由来肉である。数年前より大手ハンバーガー店にお目見えした植物由来ハンバーガーが少しずつ、確実に市民権を得ているのである。
アメリカでの植物由来肉の市場規模はまだ正確な数字を把握するのが難しいが、すでに10億ドル(約1100億円)を超えたといわれている。大手ハンバーガーチェーンで植物由来肉を始めてメニュー化したのがバーガーキング。2019年8月より全米展開をし、「Impossible Whopper」という名前のメニューである。
そして最大手のマクドナルドも「McPlant Burger」をいよいよ全米展開することを発表。市場がさらに広がっていくと期待されている。この植物由来パテを販売している2大大手は「Impossible Foods」と「Beyond Meat」。バーガーキングは「Impossible Foods」と提携し、マクドナルドは「Beyond Meat」と提携した。これらのブランドは最近スーパーでもよく見るようになった。
アメリカではそれまでもベジバーガーや豆腐ジャーキーなど植物由来の商品は何十年も販売されている。しかし何が違うのか。一言で言うと「普通にお肉を食べる消費者」向けの商品でもあることだ。それ以前の商品はあくまでベジタリアン向けの商品。全米でベジタリアン人口は約3%と言われるが、代替肉は残りの97%の市場を対象としている。主な原料は大豆、グリーンピースなど植物性プロテインで、本来のハンバーガーと変わらない味、食感を再現している。
バーガーキングの「Impossible Whopper」も、あらかじめ普通の肉と比較して食べると差を感じるが、何も言わずハンバーガーとして食べれば大きな差を感じないレベルに近づいている。
追求すべきは植物由来独自の味
植物由来肉がさらに市場を広げていくには、まだまだ課題もある。アメリカで販売されている商品のほどんどがハンバーガーのパテかソーセージである。パスタや日本食など幅広い料理への開発もすでに行われているが、市場が広がっていくのはこれからである。
日本では不二製油がこの分野の大手で、すでに焼肉、担々麺の具材などさまざまな商品が開発されている。ニューヨークのラーメン屋でも植物由来肉を使ったベジタブルラーメンを少しずつ見るようになった。
だが味わい、食感が普通の肉に近づいたと言えども、全く同じにすることは難しい。業界でも肉を後追いするのでなく、植物由来独自の味わい、食感を追求していくべきだ、という声も上がっている。
これからどのような方向に進むのか、まだまだ目が離せない。次の100年後には、植物由来肉のみを扱った大手ハンバーガーチェーン店が存在しているかもしれない。そんな未来を思い描いてみるのも楽しい。
釣島健太郎
Canvas Creative Group代表
食ビジネスを中心とした戦略コンサルティング会社Canvas Creative Group社長。
「食ビジネスの新たな未来を創造する」をコンセプトに、現在日本からの食材・酒類新事業立ち上げ、現地企業に対しては、新規チャネル構築・プロモーションから、貿易フローや流通プロセスの最適化、物流拠点拡張プランニングまで、幅広くプロジェクトを手掛ける。
canvas-cg.com