食ビジネス古今東西

第5回 日本緑茶の本当の価値を探る

当コラムでは、食ビジネス戦略のスペシャリスト、釣島健太郎が米国食ビジネスを現在、過去とさまざまな観点から検証。その先の未来へのヒントやきっかけを提示していく。


「アンダーレイテッド(Underrated)」という言葉がある。スポーツ選手、映画、ミュージシャンなどで存分な実力があるが、過小評価されている場合によく使われる言葉である。まだ実力が世に知られていない「金の卵」と解釈することもできる。

そんなUnderratedな日本食材を一つ選べ、と言われると何だろうか――。食ビジネスという観点から考えた場合、「日本緑茶」を挙げたいと思う。

日本緑茶は、日本を代表する世界でも最高峰の嗜好品である。日本人のわれわれでもその奥深さ、面白さをあまり理解していない。また多くのレストランでは、日本緑茶をサービスで出す習慣が長くあり、最も日本緑茶を楽しんでもらえる場でありながら、いまだにこの事実を広める段階にはない。当記事を読んで、何かのヒントになれば幸いである。

世界3大茶に見る日本緑茶

世界3大茶とは何かと言うと、「紅茶」「中国茶」「日本緑茶」である。この3つの違いは製法だ。「紅茶=発酵(酸化)」「中国茶=半発酵」「日本緑茶=不発酵(蒸す)」となる。

日本緑茶の最大の特徴は茶葉を摘んだ後に蒸すことだ。この工程を極めたことにより他のお茶と比べてもアミノ酸が豊富でうま味の高いお茶を完成させることができた。紅茶の特徴は香りとコク。日本緑茶の特徴はうま味と考えればよい。

抹茶と煎茶の歴史

では抹茶と煎茶、どちらが歴史的に古いのか? 抹茶は西暦1200年(鎌倉時代)頃には日本ですでに飲まれていたとの記録がある。煎茶はそれから600年後の1800年頃にもむ工程を加えて、安定的にそして大量に生産できる体制を整えられるようになった。

この事業を成功に導いたのが江戸の山本嘉兵衛(かへい)で、現在の「山本山」である。現在では煎茶が一般的で抹茶は特別な時に飲むものというイメージがあるが、実は抹茶の方が歴史が長い。煎茶は江戸時代に起きた技術革新によって一気に広まったイノベーションなのである。

それぞれの茶葉にある優れたストーリー

紅茶にはアールグレイ、セイロン、ダージリンなどさまざまな茶葉、種類があるが、日本緑茶においてはあまりそのようなイメージがない。静岡、宇治、八女、鹿児島のように産地は有名だが、ある特定の茶葉にフォーカスが当てられることは少ない。これは日本緑茶はブレンドされることが多いことと、ある茶葉が日本で生産されている75%の生産量を占めているためである。

その茶葉とは「やぶきた」である。皆さんも一度は耳にしたことがある茶葉だろう。やぶきたは日本酒で言う山田錦、食米で言うこしひかりである。しかし最近はウィスキーやワインのシャトーと同じように茶葉の品種と産地を特定した日本緑茶が増えており、日本茶の可能性をますます広げている。ワインでカベルネソービニヨン、メルロー、ピノノワールなどブドウの種類や産地で味、香りが変わり、それを楽しむように、日本緑茶はノンアルコールでそのように楽しめる飲料なのである。

ニューヨークにはさまざまな茶葉にフォーカスを当てたシングルオリジン日本緑茶を扱う専門店がある。これらの店では各産地のやぶきた茶葉以外にもさきみどり、つゆひかり、静7132などの茶葉を販売している。

マンハッタンとブルックリンに2店舗を構える「ケトル」は、福岡県の八女茶の取り扱いから始め、現在では30種類近くのシングルオリジン日本緑茶を取り扱う。自社で石臼も所有し、ニューヨークでひいた抹茶や緑茶を多くのレストランへ販売もしている。

またマンハッタンに店舗を構える「29B ティーハウス」は、日本緑茶と中国茶をそろえる。それぞれのお茶の魅力、味わい方をオーナーのステファン氏が丁寧に説明してくれるので、お茶を俯瞰して学ぶことができるだろう。

ここで紹介したのは日本緑茶のほんの一部だが、日本緑茶はワインのようなビジネス力、魅力を秘めた金の卵なのである。われわれ消費者が一人でも多く、その価値、神髄、特徴を理解することから始めよう。

 

 

 

 

 

釣島健太郎
Canvas Creative Group代表

食ビジネスを中心とした戦略コンサルティング会社Canvas Creative Group社長。
「食ビジネスの新たな未来を創造する」をコンセプトに、現在日本からの食材・酒類新事業立ち上げ、現地企業に対しては、新規チャネル構築・プロモーションから、貿易フローや流通プロセスの最適化、物流拠点拡張プランニングまで、幅広くプロジェクトを手掛ける。
canvas-cg.com

 

               

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