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当コラムでは、食ビジネス戦略のスペシャリスト、釣島健太郎が米国食ビジネスを現在、過去とさまざまな観点から検証。その先の未来へのヒントやきっかけを提示していく。
「カリフォルニアロール」はカリフォルニアで開発されたアメリカで最も有名なすしロールである。
日本の巻きずしと言えばかんぴょう巻き、かっぱ巻きなど、シャリ(すし飯)の外にのりを巻く。開発された当時(1970年代)、アメリカ人は黒いのりに抵抗を感じることも多く、シャリの中にのりを巻いたことで市民権を得たとも言われている。
中身の具材はアボカドにカニカマ。これらの具材が採用されたのは、70年当時、すしに魚以外の食材を求めていたことと港湾ストライキで日本からの物流が数カ月止まったことから新たな食材でメニュー作りが急務となったためだ。
この時考案されたメニューは、約50年経った今は日本に逆輸入されている。このカルフォルニアロールからアメリカの東西海岸の違いをひもといてみる。
東海岸と西海岸で異なる食材の需要
カリフォルニアロールのメイン具材のカニカマは「カニ風味かまぼこ」の略称で、白身魚のすり身のカニ風味のかまぼこだ。このカニカマ、ニューヨークで圧倒的に売れるのは広島県に本拠を置く大崎水産の「フィッシュスチック」。
価格は他社産のカニカマより1・5倍から2倍ほどと高い。白身魚では最も上級と言われるスケトウダラを存分に使用。柔らかい食感、サラっとしたほぐれ具合で「カニカマと言えば大崎」とニューヨークのシェフはその価値を疑わない。食材の価格が高騰する中、コストを抑えることに悩むシェフたちは、他の食材は新食材に変えても「カニカマは高くても大崎水産」と変えない。今でもニューヨークのカニカマのトップブランドである。高くてもこだわるニューヨーカー、ということだろうか。
だが西海岸に移ると事情は大きく変わる。大崎水産の「フィッシュスチック」の販売が大きく減り、アクアマー社など現地の工場で生産されたカニカマが主流である。スティック状でなく、すでにほぐれたフレーク状態ということもあり、値段は大崎水産「フィッシュスチック」より手頃だ。サラダにそのまま使いやすいという利点もある。
都市の特性を把握することが食ビジネスの鍵
お米に目を向けるとニューヨークでは、米国産で最も値段が高いカリフォルニア産コシヒカリを扱うレストランが10年ほど前から顕著に増えた。コシヒカリ独特のもっちり感、冷めても持続する好食感は他の追随を許さない。
一方西海岸では、上級カルローズ米が主流だ。1910年代に滋賀県の酒米(さかまい)、渡船(わたりぶね)とアーカンソー州のブルーローズ米を交配し、60年代にササニシキのぬか米を交配するなどして上級カルローズ米へと成長した。値段はコシヒカリより数十パーセントほど安価である。しかし粒が大きい中粒米で、すしを握りやすく、乾燥地帯のカリフォルニアでは比較的さっぱりした上級カルローズ米が合うとも考えられる。
一方ニューヨークは緯度が日本の青森と同じで、日本とほぼ同じ四季があること、日本に近い品質が好まれることから、コシヒカリへの支持が増えているとも考えられる。
その他にもニューヨークでは日本酒のラベルを選ぶ時、日本のデザインをそのまま持ってきてほしいと言われることが多い。一方カリフォルニアでは、その土地にあった独自の雰囲気に変えてほしいと言われる。これは本物志向のニューヨーカーと自分たちの特色を出したいカリフォルニアとの違いとも解釈できる。
カリフォルニア発カリフォルニアロールだが、その中身にはその土地土地の事情が反映されているのである。カリフォルニアロールに限らず、各地各都市の特性を把握することもビジネスの楽しさの一つではないだろうか。
釣島健太郎
Canvas Creative Group代表
食ビジネスを中心とした戦略コンサルティング会社Canvas Creative Group社長。
「食ビジネスの新たな未来を創造する」をコンセプトに、現在日本からの食材・酒類新事業立ち上げ、現地企業に対しては、新規チャネル構築・プロモーションから、貿易フローや流通プロセスの最適化、物流拠点拡張プランニングまで、幅広くプロジェクトを手掛ける。
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