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今年のノミネート作品の傾向、出演俳優の話などを含め、授賞式の見どころを紹介していく。(取材・文/音成映舞)
変革期を迎えた2023年の映画業界
歴史的なストライキ
新型コロナウイルスも落ち着き、続々と作品公開が続く中、全米脚本家組合(WAG)が賃金の引き上げ、健康保険・年金への拠出拡大、人工知能(AI)を巡る対策を理由に、昨年5月から約15年ぶりにストライキを開始した。そして、7月からは全米映画俳優組合(SAG─AFTRA)がネットフリックスなどのストリーミングサービスにおける出演俳優への追加報酬、最低賃金の引き上げ、AIの使用に対する俳優の肖像権の保護などの理由から、1980年以来のストライキを実施。両組合が同時にストライキを実施したのは、1960年以来となった。
AIの脅威
今回のストライキで大きな問題として取り上げられたAI問題。すでに各分野でAI技術は活用されている。
例えば、アルゴリズムによって色補正や音声編集などを行うことをはじめ、ユーチューブなどですでに導入されている自動翻訳もその一例だ。AIに膨大なデータを分析させ、そのテーマにあった音楽を作らせることや、声優やアフレコも高度な音声合成が可能な上、ディープフェイクを使った俳優の若返りなどはすでにハリウッド映画で使用されており、亡くなった俳優をスクリーンで生き返らせたり、スタントの代役をAIが行うなど、今後、本人でなくても良い時代が到来する可能性を危惧している。
脚本家たちにとっても同様で、AIがライターの補佐として協力することになれば、採用される脚本家の人数が減り、個々の収入が減る。人間の創造性、感情はやはりAIでは再現できないため、補助としてどこまで活用するかの線引きが大事となるだろう。ただし、進化し続けるAI技術は、数年後にまた問題となる可能性は否めない。
「バービー」大ヒット
ストライキの最中でも映画は通常通り公開された。出演者たちによる宣伝活動はほぼなかったものの、蓋を開けてみれば映画館への客足に影響することはなかった。
その理由として、ワーナー・ブラザースの『バービー』と、ユニバーサル・ピクチャーズの『オッペンハイマー』という二つの大作映画が同時公開されたことが大きな理由だ。
着せ替え人形バービーの世界を実写化し、監督を務めたグレタ・ガーウィグの手腕が発揮されたコメディー映画ではあるが、フェミニズム問題を嫌味なく観客に伝えた傑作に仕上がった。1959年に最初のバービー人形がマテル社より発売されてから約60年余り。子供時代にバービー人形で遊ぶことが浸透している米国人が、世代を超えてピンクの服装で映画館へ詰め掛け社会現象を巻き起こしたことも話題となった。興行収入でも世界興収14億4000万ドル(2024年1月15日時点)を稼ぎ、作品評価と興収の両方で成功を収めた。
バービー役を務めたオーストラリア出身のマーゴット・ロビーは、本作でプロデューサーとしても大成功を収めた
授賞式の見どころは?
200以上の国・地域で生放送される授賞式。今年はトークショー『ジミー・キンメル・ライブ』の司会者として知られるジミー・キンメルが、昨年に引き続き司会を担当する。
2022年にはウィル・スミスの平手打ち騒動、2017年には作品賞の封筒が間違って渡されるという前代未聞の事件まで起きたりと、生放送だからこそ何かしらハプニングが起きやすい同授賞式。良質なインディペンデント映画が好まれることが多いが、『バービー』と『オッペンハイマー』の影響で、今年は久しぶりに大作映画が受賞しそうな予感。どの作品がオスカーの栄光を手にするのか。授賞式は、3月10日(日)米ABCにて午後7時より放送される。
歌曲賞にノミネートした『アイム・ジャスト・ケン』。助演男優賞候補のライアン・ゴズリングが授賞式のステージで歌うことも決定した