巻頭特集

日本酒 メイド・イン・USA

初公開! 獺祭酒蔵見学ツアー

4年の歳月と総工費8000万ドルを投じて完成したハイドパークにある獺祭の酒蔵。総床面積5100平米の広大な空間には日本から導入した最新式の醸造機械がずらりと並ぶ。伝統技術や専門家の勘を尊重しつつも、データや数値の分析も最大限活用して上質な純米大吟醸の安定生産を目指すのが獺祭流。桜井、霜鳥両社長のご案内で酒蔵内を見学させていただいた。

 

製造工程は全部公開

博覧会のパビリオンを思わせる巨大なモダン和風の酒蔵に入ると、そこは半導体工場さながらの超清潔空間だ。獺祭の酒造りは精米→ 洗米→ 蒸米→ 麹造り(床)→ 枯らし→ 発酵→上槽→ 瓶詰めなど多層的だが、主要工程が小さなのぞき窓から見学できる。

「どの工程も同等に重要。100%完璧でないといけない。どこか一つに問題があっても、お酒は失敗します」と霜鳥社長。「原料のお米の状態も水質も季節によって毎回違うのです。その誤差を0・1%に抑えるのが獺祭の方針です」例えば、洗米で大事なのは米の水分含有量。10キロごとのバッチに分けて240回も洗うのだが、毎回、計量して水分を割り出し、多少があれば次のバッチで洗う時間を数秒変えるなど微調整。結果、「誤差0・1%」が死守される。

 

人と機械が作る「良い酒」

「料理を作るのと同じで毎回違うのです。ここは何秒伸ばせばいい、みたいな杓子定規でできるわけでもない。機械と合理性だけではいい酒はできません。かたや勘だけでもダメ。両者の組み合わせですね」と桜井社長が付け加えた。

次の窓からは蒸米作業が見える。お酒造りのお米は炊くのではなく蒸す。ポイントは「外硬内軟」。外が硬くて内部が柔らかいように蒸して、麹菌を水分で米の内部に導いてあげる、という。

そして、「床(とこ)」と言われる麹作り。この工程では蒸米の上に麹菌を散布していわばカビを増殖させる。どのようにカビを育成するかでお酒の良し悪しが決まるが、重要なのがやはり水分。12ある作業台は全て重量計になっており、水分量を把握する。純米大吟醸は普通酒に比べて発酵日数が長い。酵母が安定して発酵を続けるためには、栄養も与え続けなくてはならない。

霜鳥社長は言う。「私たちが欲しいのはカビでなくカビが作る酵素なのです。カビを働かせているのです」カビが従業員ですか?「はい。大勢います」(笑)。

 

日本と同じ最新式の設備が並ぶ発酵室

 

週4万8000本出荷!

次の発酵室の中では米と麹と酵母を合わせて清酒の醪を作る。ここが獺祭酒造りの真骨頂で室温を摂氏5度にキープ。35日間かけてゆっくり発酵させる。一般的に日本酒は秋収穫した米を冬季の寒冷期に仕込むのが常だが、獺祭は、温度管理技術を駆使してこの工程を一年中、どこでも(海外でも)できるように改良した。

ここから先も酒を絞り出す機械や瓶詰めなど興味深い工程が多いのだが紙面の関係で割愛させていただく。

ツアーの終わりに桜井社長は「現時点の生産量は、一週間あたり15キロリットル、720ミリリットル瓶で4800本ですが、軌道に乗ったら、この10倍のペースになりますよ」と胸を張った。

米国産純米大吟醸酒の製造過程を目の辺りにできる「獺祭酒蔵ツアー」の一般公開は10月12日から始まっている。お酒の科学をわかりやすく説明していただけるので、日本酒「党員」でなくても楽しめる。

 

米国産「DASSAI BLUE 」。50、23、35と磨き別に3種。華やかな香りと口に含んだ時に感じる蜂蜜のような甘みが特徴。後味は抜群にキレがよいものの、長く静かな余韻を残す

ボトルは2度消毒してから酒を注入する

<蔵開き!>

式典には政府関係者や飲食関係者ら400人以上がお祝いに駆けつけた

9月23日に行われた蔵開きには政府関係者や飲食関係者、旭酒造関係者など400人以上が集まった。旭酒造の桜井博志会長(72)は「日本と米国の文化を融合させながら、日本の獺祭を上回る品質を目指したい」と挨拶で述べた。「DASSAI BLUE Type50」は720ミリリットルの精米歩合50%で34ドル99セント。国産の獺祭よりもアルコール度数を下げ、フルーティーな味わいに仕上げたという。

セレモニーには森大使も駆けつけた

旭酒造の桜井博志会長

Dassai Blue Sake Brewery

5 St, Andrew Rd, Hyde Park, NY 12538

asahishuzo.ne.jp/dassaiblue


他にもあるNY生まれの日本酒

ブルックリン・クラ 日本の銘酒が認めたブルックリン酒

オーナーはブライアン・ポーレンとブランドン・ダグハムの2人組。ほとんどアマチュアで始めた2人は、ワインの中古タンクを改造したり、仕込み台を自作したりと試行錯誤しながらも本格的な日本酒を完成。2018年に現醸造所をブルックリン区インダストリー・シティー内に開業した。切れ味が良くフルーティな香りが立つ純米吟醸は、舌の肥えたブルックリンっ子をうならせ、週末ともなるとタップルームは満員の賑わいだ。2021年には新潟の地酒「八海山」とのコラボを開始。米国人が作ったお酒に、日本有数の銘柄のお墨付きがついた。彼らの酒愛と汗の結晶をゆっくり口に含めば、感慨の味わいがじわっと広がる。

左からオーナーのブランドンさんとブライアンさん

Brooklyn Kura

68 34th St., Brooklyn, NY 11232

TEL: 347-766-1601/Brooklynkura.com


カトー・サケ・ワークス ロックのスピリッツが生んだカッコイイ日本酒

ブルックリン区ブッシュウィック地区に酒蔵を構えるヒップな日本酒メーカー。創業2016年。ラインナップは純米酒を筆頭に、にごり、生酒など全9種。いずれも搾りたてをインダストリーな雰囲気のテイスティングルームで味わえる。人気は柚子の風味をインフューズしたその名もYUZU。手作り少量生産の柔らかい味わいに柑橘類の清涼感が加わって、実に飲みやすい。創業者の加藤忍さんは生まれも育ちも東京・高円寺。若い頃からロックとお酒が大好き。自作した日本酒を友人に振る舞ったところ「シノブの酒」として評判を得たため、思い切って脱サラ。乱立する地ビールブルワリーの向こうを張るべくブルックリン発の日本酒を提唱している。

左からにごり酒、純米酒

Kato Sake Works

379 Troutman St., Brooklyn, NY 11237

TEL: 917-719-1603/Katosakeworks.com

関連記事

NYジャピオン 最新号

Vol. 1255

夏の和野菜

盛夏のニューヨーク。色鮮やかな野菜たちが街中に溢れ、目を奪われるが、私たち在留邦人はどうしても和野菜が恋しい。実は、よく探せば、こんなアウェーな土地でも本格的な日本の野菜が手に入る。グリーンマーケットや野菜宅配サービスの賢い利用法など、今回の特集ではとっておきの和野菜情報をお届けする。