巻頭特集

日本酒 メイド・イン・USA

相変わらず続く日本食ブームの影響で米国でも上質な日本酒の輸入と売り上げが伸長しているという。和食店だけではなく自宅でもワインのように日本酒を食事の友として楽しむ米国人が増えてきた。そんな中、先月23日には、「獺祭」が米国初の酒蔵をニューヨーク州北部のハイドパークに開き、米国産新銘柄「BLUE」が全米に出荷された。ニューヨークを中心に広がるメイドインUSAの日本酒事情を追った。(文・取材/中村英雄)


米国で作る新しい日本酒

ハイドパークで稼働した獺祭の真新しい酒蔵を訪ね、旭酒造社長・桜井一宏さんと同USA社長・霜鳥健三さんにお話を伺った。

 

─獺祭は国際賞に輝く躍進ぶりですが、海外での成功の秘訣は?

桜井:実際は失敗の連続ですよ。ニューヨークでも当初は食品商社さんと同行営業しましたが、当時は誰も知らない山口のお酒ですから「響かない」状態が続きました。飲食店に持ち込んでもうまくいかない。そこで(味には絶大の自信がありましたから)ゲリラ的な試飲会などお客さんに直接飲んでいただける機会を作って口コミで広めてもらったのです。つまり、うまくいかなかったら「手を変え品を変えやること」が大事だと思います。最初から、綿密な計画やマーケティング戦略を持ってやったことなんて一度もありません(笑)。

─ハイドパークを選ばれた理由は?

桜井:この街にある米国有数の調理学校Culnary Institute of America(CIA)から「酒蔵を作らないか」との提案を受けたことです。CIAは料理のハーバードと言われる一流校ですが、日本食が米国でここまで伸びてきた状況を受けて、「本物を求めたい、本当の和食を研究・指導したい」という希望を持っていて、それゆえに本格的な日本酒の酒蔵建設に手を差し伸べた、というのが経緯です。

─輸出と違って日本酒の海外現地製造となると苦労も多かったのでは?

霜鳥:酒蔵の工事が一番大変でした。日本酒造りの設備は日本とほぼ同じものを導入していますが、日本と違って建設をゼネコンに一任するスタイルではなく、分業化していて様々な施工業者や企業が複雑に絡み合うため、その「糸をほどく」のが一苦労でした。

─日本人スタッフが醸造しているのですか?

桜井:いいえ。現在、日本の本社からは専門家3人のみが出向。あとは現地採用の6人が米国人で、未経験者ばかりです。獺祭は純米大吟醸一種だけで特殊な業態です。その作業工程を教える立場から言えば、酒造りの経験がない人の方が教えやすいのです。

霜鳥:採用時の面接でも、一番重要視したのは「素直そうかどうか?」でした(笑)。

─今は国産の山田錦を原料にされていますが、将来は米国で栽培した山田錦を使うそうですね?

桜井:はい。来年早々からアーカンソー州の米農家が提供する今季の新米を使います。現状はかなり良いお米ができています。

─ジャピオン読者へのメッセージを。

桜井:一つは「感謝」です。獺祭の米国上陸初期には、ニューヨークの在留邦人に随分助けていただきました。日系の飲食店様や酒ソムリエの方々にもお世話になりました。ニューヨークでちゃんと飲まれるお酒になったからこそCIAから声がかかったのです。本当にありがとうございます。もう一つは、引き続き見守ってほしいということ。私たちがこの酒蔵で目指すのは日本で作る酒の再現ではありません。米国の環境で獺祭というお酒を一から再構築したいのです。今のBLUEはまだ完成形には程遠いかもしれませんが、これから和食にだけでなく、西洋料理にもっと合う日本酒に育てたいです。ニューヨークの食スタイルと交わりながら新しい日本酒、ひいては最高の食文化を米国人と一緒に作り上げてゆく、それが私たちの夢です。

霜鳥:米国の獺祭は、ステーキに合う日本酒です。お酒で食事の幅も広げたいし、究極的には日本の食文化の幅も広げてゆきたい。今まで山口県中心の獺祭でしたが、私はニューヨーク中心の獺祭を打ち出したいです。

 

左: 桜井一宏さん(4代目社長)

早稲田大学社会科学部卒業。2006年、旭酒造に入社し海外マーケティングを担当、主にニューヨークで海外進出の礎を築く。2016年、代表取締役社長に就任し、4代目蔵元となる。

右: 霜鳥健三さん(USA社長)

東京農業大学を卒業後、国税庁醸造試験所に入所。その後民間の酒造会社で米国、中国などで清酒工場の建設に携わる。2019年よりDassai USAの設立に携わり社長に就任。

 


獺祭は早くから海外に積極的に進出。安倍元首相が各国の首脳に贈呈したり、G7外相会合の夕食会で振舞われるなど国際舞台で数多くの脚光を浴びる。山口県岩国市が発祥でもとは「旭富士」の銘柄で知られる普通酒のメーカーだった。1980年代から地元での売り上げが急速に落ち込んだため、90年に東京進出。高品質、高付加価値を重んじる東京の市場を睨んで純米大吟醸のみの製造に切り替え、銘柄を「獺祭」に。その後、東京での手応えをもとに台湾、香港、ニューヨークの三拠点に輸出を展開。

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