巻頭特集

ハロウィーン名物 背筋も凍る紐育奇譚(ニューヨークきたん)

ハロウィーンの季節になると、新聞や雑誌、ネットメディアがこぞって取り上げるのが地元に伝わるゴーストストーリー。米国有数の「怪奇都市」ニューヨークには、数え切れないほどの逸話が残っている。(文・取材/加藤麻美)


幽霊が教えてくれるNYの歴史

ハロウィーンの定番アイテムであるワシントン・アービング(1783〜1859年)のゴシック短編『スリーピー・ホロウの伝説』で描かれた首なしホースマンはフィクションだが、この街には何世紀にもわたって実際に起きた事件に基づいた怪奇現象が語り継がれている。今宵は、本紙を片手にゴーストツアーに出かけてみよう。

マンハッタン区

シティホールのそばにあ る1766年建造のセン ト・ポール礼拝堂に併設す る1697年創設の墓地 では、埋葬された人たちの 幽霊が出るという。なかで も有名なのが、ギャンブル 中毒で全財産を失った英 国人俳優ジョージ・フレデ リック・クック(1756〜 1812年)で、借金返済のために自分の首を売却したと伝えられている。墓地 と、かつて劇場があった近くの路地を彷徨う首なしの幽霊が目撃されている。

イーストビレッジの聖マ ークス教会イン・ザ・バワ リーは1799年、この地 域の大地主だったオランダ植民地時代の総督、ペトルス・スタイブサントの家 族が所有する農場に建立。1672年に亡くなったペ トルスは、礼拝堂の地下に埋葬され、現存する教会が古い礼拝堂跡地に建てられた際も保存され記念碑 が置かれた。教会では「木 製の義足を着けた」ペトルスの幽霊が出没。鐘を鳴らしたり、大声で礼拝を妨害したりするという。

1 9 3 1 年に開業したエンパイア・ステート・ ビルディングの展望台では 「1940年代の服を着 て、唇を赤く塗った女性」 が目撃されている。同ビルからはこれまでに 30 人以上が飛び降り自殺をしたが、この幽霊は、1947年5月に飛び降り自殺をしたエヴリン・マクヘイル(当時 23 )ではないかと推察され ている。彼女はリムジンの上に着地。ひしゃげた車の上に横たわった遺体を撮影した写真は、「最も美しい 自殺」と呼ばれ今も語り継がれている。

古い劇場ほど幽霊が似合う場所はない。ニューア ムステルダム劇場には、かつて 「ニューヨーク一の美 女 」と絶賛され、1920 年にパリで謎の死を遂げた女優オリーブ・トーマス (当時 25 )が舞台衣装を着て今も現れるという。ベラスコ劇場には脚本家で演 出家のデービッド・ベラス コが生前着用していた聖職者用の襟とキャソックを着た幽霊の目撃談が後を絶たない。

1980年 12 月8日に ジョン・レノンが暗殺され たダコタハウスも幽霊の宝庫だ。1884年建造のドイツ・ルネッサンス様式とゴシック・リバイバル様式 が融合したランドマークマンションには、 19 世紀風の黄色いタフタのドレスを着た金髪の子ども、かつらを被った男、子どもの顔をした男、すすり泣く女、そし て、レノンの幽霊が出るとの噂だ。特に金髪の子どもは2015年にも目撃され、ABCニュースが詳細を伝えている。

1776年の「ブルック リンの戦い」後、ジョージ・ ワシントンが退却したモリス・ジュメル邸も幽霊が 出ることで有名。ワシント ンハイツにあるジョージアン様式の邸宅は1765 年に英国軍大佐だった ロジャー・モリスが建造。 1810年、スティーブン・ ジュメルと妻イライザが買 い取り、ジュメルの死後、イライザはアレクサンダー・ ハミルトンを決闘の末に殺 害したアーロン・バーと再婚した。見学に訪れる小学生たちがイライザに似た 幽霊を見たと証言。子どもたちによるとイライザは、 「静かにしなさい」と注意し、飛び去ったという。

クイーンズ区

クイーンズ区とランドールズ・ワーズ島をつなぐヘルゲート橋(地獄の水路!)も禍々しい都市伝説の舞台だ。夜になると、イーストリバーで溺死した人の魂を乗せた幽霊列車が橋を横切るという。アストリアのカウフマンスタジオにあったサパークラブ&バー、アスタールーム(現在は閉店)には無声映画の大スター、ルドルフ・バレンティノや俳優たちの幽霊が出ると評判で「時々、誰もいないのに花の香水やタバコの煙の匂いがする」と訴える従業員もいた。

ブルックリン区

1 8 8 3 年に開通しブルックリン橋には、橋から飛び降り自殺した人たちの幽霊に混じって、1875年の建設中に発生したケーブル切断事故で首が飛んだ労働者の幽霊も徘徊しているらしい。「(足音が)後ろから聞こえてきて、振り返ると、顔が闇に包まれたような男がいる」というのだ。静かな夜にブルックリン橋を1人で歩くときは決して振り向いてはならない。

               

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