巻頭特集

闇があるから光がある 犯罪都市ニューヨーク

エネルギーに満ち溢れた街ニューヨークは、米国史上 最も凶悪な事件の舞台でもある。闇があるから光があるように、この街の魅力をディープにしてきた犯罪の足跡を辿る。(文・取材/加藤麻美)

街の歴史は、犯罪の歴史である

─犯罪に興味をもったきっかけは?

推理小説や映画に出てくる架空の犯罪ではなく、実際に起きた犯罪、とくにニューヨークの組織犯罪に興味を持ち始めたのは大学4年ごろからかな。3年と4年の夏休みに、マンハッタンにあったストリップクラブ「スコア」でバスボーイのアルバイトをしていたのですが、毎晩、開店前にスーツでビシッと決めた2人組が店にやって来たんですよ。決まって奥のオフィスに直行し、きっかり2分後には店を出ていく。2人組が来店する20分ほど前からバーテンダーをはじめ、店のスタッフはみんなピリピリしていて、2人組が店にいる間は、顔の筋肉ひとつ動かさない。てゆうか、微動だにしないんです。で、出て行った後、全員が「ホッ〜」ってな感じでね。ストリップクラブだから、「経営者はマフィアがらみだろうな」と想像していたけれど、その緊張感を目の当たりにして、「すげーな」と(笑)。「奴らは一体誰なんだろう」と興味津々でしたが、21 歳だったし「何も聞くな、何も言うな」ぐらいの知恵はありますからね。

4年生が終わった4か月後、FBIとNYPDによる大規模ながさ入れがあって、2人組がガンビーノファミリーの構成員だということが判明。オフィスには「上納金」を取りに来ていたんです。当時、クラブの経営者が保険金詐欺で訴追されていて、刑事罰の軽減と引き換えに、監視カメラや録音音声を捜査側に提供したところ、逮捕となった。「Oh! That’s cool(そうだったんだ〜)」てね。この事件がきっかけですね。

─クライムツアーを始めたのは?

直接のきっかけはパンデミックで半年間全く仕事がなかったから。長年ヘルズキッチンに住んでいて、この街の歴史にも興味があったし、「悪魔の台所」と呼ばれていたことからも分かるように昔のこの辺りはすごく治安が悪かったんです。アイリッシュマフィアの根域だったしね。犯罪の歴史は街の歴史です。調べれば調べるほど興味深いエピソードが出てきて、ハマりました。この面白さをみんなに伝えたいと思って始めたんです。

─これまでに印象に残った事件は?

ヘルズキッチン周辺で起きた事件に限定すれば、「トルソーキラー」ですね。猟奇的だし、破産寸前にまで荒廃していた1970年代のニューヨークと、ポルノショップばかりだったタイムズスクエアを象徴する事件だと思います(編集部註:事件の概要はP5を参照)。

─最近起きた事件では?

昨年春に起き、今年3月にようやく犯人の一部が逮捕された事件です。ナイトクラブでデートドラッグを飲ませて酩酊させ、金品を奪い、殺害するというもので、犯人たちは顔認証を使って被害者の携帯電話のロックを解除し、大金を奪い、高額な買い物をしていました。同様の手口の犯行は2021年から発生していて、捜査に詳しい関係者がニューヨークタイムズに話した内容によると、複数のグループが犯罪に関与している可能性があるそうです。みなさんも十分注意してください。

─仕事柄、事故物件に遭遇したことはありますか?

もちろんあります。法律では殺人事件が起きた物件に関しては、賃貸や購入希望者にその内容を開示しなければならないと定めています。でも、そういった事故物件や墓地のそばの物件はとても人気があるんですよ。何らかの「ロマン」を感じるのかもしれないですね。

お話を聞いた人

スコット・アダムさん

不動産エージェント、歴史愛 好家。本業の傍ら、エアビー アンド ビーが催行するヘルズ・キッチン・ツアーのガイドも務める。LGBTQ+の若者を対象に次世代リーダーやアドボケーターを育成し、彼らが安全に暮らせる場所を提供する非営利の支援団体リブ・アウト・ラウドのニューヨーク支部委員。

インスタグラム @scottadamnyc

               

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