木を見て、森を見て、木として考えるコラム

<第21回> 母の日のあり方と、多様な母親像

毎年5月第2日曜日は母の日──今年は12日だ。

米国で母の日が正式に祝われるようになったのは、1914年のこと。経緯は19世紀の南北戦争に遡り、息子や夫を戦場に送り誰かの息子や夫の命を奪うことに反対する母や妻の声が広まり、双方陣営の家族が結集し和解を祈ったことが、きっかけの一つになったそうだ。平和を訴えた運動が、私たちがよく知る母の日に繋がっているのか…今まさに世界で起きていることも相まって、非常に感慨深い。

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「お母さん、いつもありがとう」を超えて

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母の日のメッセージとして、米国では「Happy Mother’s Day」が交わされる。日本では、「お母さん、いつもありがとう」が一般的だろう。どちらの表現であっても、母親への感謝が溢れる一日だ。

世の中の多くの母親は、実に大変な労働を日々担っている。育児や家事の大部分を任されることが多く、加えて外で就労していたり、介護などが重なる場合も珍しくない。「いつもありがとう」の日が一年に一度設けられるだけでは、とてもじゃないけれど割りに合わないかもしれない。

育児をはじめケア労働が母親に偏りがちで、なのにそれが当たり前になっていること、シングルマザーの場合は状況がなお深刻になり得ることなどを認識し、個人レベルだけではなく社会全体で変えるべきことを考える──そういった話し合いが、母の日に、そしてそれ以外の日にも、もっとされるべきではないかな。

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多様な母親像と、その周りにあるものを尊重する

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以前働いていたとあるファッションブランドで、5月に向けた企画会議中に展開された話し合いが強く記憶に残っている。PR担当者から出た、会社の代表が妊娠中に自社のドレスを着て撮った写真を母の日にソーシャルメディアに載せよう、という案について話していた時のことだ。

代表は、「アイデアを共有してくれてありがとう。でもね、最も『一般的な』母親像と言えるケースの自分を、母の日に投稿するのはどうなのかなって思うんだよね。私はシスジェンダー女性で、異性パートナーと結婚し、妊娠と出産が可能だった。そして現在仕事をしながら子育て中だけれど、同じ背景や状況ではない母親もたくさんいるよね」と話した。いつも通りのカジュアルなミーティングで、穏やかな物言いだったけれど、彼女の思いは伝わってきた。

妊娠が難しい、妊娠が出産に至らない場合など、母親になりたくてもなれない人たちがいる。子を失った人たちもいる。母親になりたくてもならない理由がある人たちもいる。子に会えない事情がある母親たちや、母親でいることに苦しんでいて助けを求めている人たちもいるだろう。自分ではない人が妊娠・出産した子を育てている母親もいるのを考えると、自分の子を妊娠中の姿を見せることも代表は躊躇したのかもしれない。他方で、母親がいない、または母親との関係が複雑な人たちもいる。

母親像は非常に多様で、想像が及ばないほど無数の形がある。その周りには、家族のあり方、個人の経験や生き方の選択なども、様々な形で点在している。

「どうしても似たようなビジュアルやメッセージがあちこちで展開されるだろうから、自分たちまで加わらなくていいね」「そしてみんなで話し合いこの決断に至るということもまた、多様な母親像を考える私たちなりの、母の日の祝福の形だよね」メンバー全員が納得し、次の議題に移った。

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限定的や商業主義的ではない母の日に

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感謝の気持ちとして、カード、プレゼントや花束を選んだり、エクスペリエンスを企画し母親に贈るのは、とても素敵だと思う。だけれども、この時期になるとソーシャルメディアや広告は贈りものの提案でいっぱいになる。「お金を使う」ことだけが母親への感謝を表す形ではないことも、覚えておきたいものだ。

5月第2日曜日。母親が抱える日々の負担が大き過ぎること、この日が誰しもにとって〝happy〟ではないかもしれないことや、祝い方が商業主義的になっていることも、今一度考える。母の日には、そういう役割もあっていいと思う。

 

COOKIEHEAD

東京出身、2013年よりニューヨーク在住。ファッション業界で働くかたわら、市井のひととして、「木を見て森を見ず」になりがちなことを考え、文章を綴る。ブルックリンの自宅にて保護猫の隣で本を読む時間が、もっとも幸せ。
ウェブサイト: thelittlewhim.com
インスタグラム: @thelittlewhim

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