木を見て、森を見て、木として考えるコラム

<第16回> 過大評価も過小評価もしないで。「古い」家具と暮らす

友人宅を訪ねたりインテリアショップに行くたび、この街には素敵な家具が溢れていると思う。最先端のデザイナー家具から、歴史的背景を持つアンティーク家具、はたまたDIYのものまで幅広い。

同時にニューヨークは、家具より前に住む場所の確保すら困難なほどお金がかかる。家賃はじめ住宅価格高騰やジェントリフィケーションは大きな問題であり続け、ゆえに引越しが多く人の出入りも激しい。

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循環を意識し、まずは中古で探す

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そんな中、私は家具を揃える上で、「まずは中古で探す」を念頭に置いている。多くの人々がきっとそうであるように、限られた予算内で「良い」ものに出会いたいし、生活環境に合う「好き」なものを、「長く」使いたい。それに加えて循環を意識すると、「古い」ものに惹かれるのだ。

これは、呼び名がつくほど付加価値が高かったり、それに伴い価格も上がるようなアンティークやビンテージの家具を選ぶことと同じではない。そういった家具に付与される、あたかも普遍的かのように見える価値は、市場と、家具やデザインに明るい誰かが決めたもの。その客観的価値は、必ずしも自分の理想と合うわけではなくて。斜に構えているようだけれども、これはとても本質的なことだとも思っている。自分の生活の一部となる家具一つ一つの評価は、ある程度の客観性を持ちつつも自分でするべきだから。そう考えると、あまたある中で出会う、すでに存在し機能している家具そのものの「価値」と、受け継がれることで続く「ライフ」を、私は重視したいのだと思う。

実際に私の暮らしは、「古い」家具に囲まれている。地域型ビンテージマーケット、フリーマーケット、不要品などを個人間で売買できるアプリ、近所の人からの譲り受けなど、様々な機会を活用してきた。特に元の持ち主や過去が見える出会いだと、誰かから自分の手に渡る瞬間もその家具の「ライフ」に刻まれるようで、私にとってそれもその家具の「価値」の一つになる。

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ファストファーニチャー問題

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さらには、古家具を地域で回収・販売し、環境問題の啓蒙もする、RemixMarket (クイーンズ区ロングアイランドシティー地区とブルックリン区インダストリーシティー)やBigReusue(ブルックリン区ゴワナス地区)を利用すると、家具とその廃棄についても考えるようになる。

特に、革命的に「速い」「安い」「新しい」家具が当たり前になって久しく、実にファストファーニチャーという言葉もあると聞く。読者の頭に浮かぶファストファーニチャーの例は、いくつかあると思う。多様な暮らしを考え設計された家具が手軽に手に入り、非常に合理的で便利。しかし場合によっては、長持ちしにくかったり、修理が難しかったり、飽きたり不要になった際に捨てられてしまいがちだったりと、家具のあり方と考え方を大きく変えてしまった側面もある。すると同時に、埋め立て地送りや焼却の処理も増え、ゴミ問題と気候変動に影響する。スピードと量を重視するゆえ、原料採取や製造・流通過程の環境負荷と労働環境も気にかかる。

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過大評価も過小評価もせず、引き継ぐ「価値」

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冒頭で述べたように、住むだけでお金がかかり、引越しや人の出入りが多いこの街では、「古い」家具はどうしても生まれやすい。ならば、それを家から家へ、部屋から部屋へ、人から人へ、循環することがもっと容易になるべきだと思う(もしそれがファストファーニチャーであっても)。市場価格や誰かが決めた客観性で「特定の古さ」を過大評価することも、新品ではない「おさがりの古さ」を恥ずかしいと過小評価することもなく、家具が持つ等身大の「価値」と「ライフ」を引き継ぐという、本来とてもシンプルなことである循環こそ、もっと普遍的に受け入れられたらいい。

急を要するわけではない家具の購入や、今ある家具を手放す予定がある際、ぜひ循環を意識した方法を検討してみて欲しい。時間と手間はかかり、誰しもにとって可能な現状ではないけれど、循環の輪をもっと増やせば、その持続可能性を促すことができると願っている。

 

COOKIEHEAD

東京出身、2013年よりニューヨーク在住。ファッション業界で働くかたわら、市井のひととして、「木を見て森を見ず」になりがちなことを考え、文章を綴る。ブルックリンの自宅にて保護猫の隣で本を読む時間が、もっとも幸せ。
ウェブサイト: thelittlewhim.com
インスタグラム: @thelittlewhim

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