木を見て、森を見て、木として考えるコラム

<第7回>「どうってことある」存在 ── 日系のスーパーマーケットや書店

日本では「どうってことない」ように感じるかもしれないお店も、ニューヨークでは「どうってことある」存在…ニューヨーク生活が今月で丸10年になる私は、それを心から感じている。

アストリア地区のファミリーマーケット、マンハッタン区の片桐、ウィリアムズバーグ地区のミドリヤ。住んだことのあるエリアには、図らずとも、日系スーパーマーケットがいつもあった。スモーキーBBQ味のチップスではなく、黒豆せんべいをかじりたい時。マカロニ&チーズではなく、煮込みうどんが恋しい時。爽やかなディルではなく、シャープな紫蘇を欲している時。立ち寄ると、日本の日常が出迎えてくれる。

日本語を求めている時は、ブライアントパーク駅で降り、紀伊国屋書店とブックオフへ。表紙が右に開き、文字が縦に並ぶ日本語の書籍に囲まれる。日本の中古書を眺めていると、ヒット作品や著名作家の本の間に、私の興味をどんぴしゃに刺激するちょっとレアな書籍を見つけることがある。この本は日本からどのように海を渡ったのかな、元の持ち主はどんな方なのかな、と思いを馳せずにいられない。その後は、近くのサンライズマートやダイノブで夕飯の買い物をして、岐路に着く。

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年の瀬の「どうってことない」買い物も、年に一度の楽しみ

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私とパートナーは、カラフルで賑やかでスパイスの香りが広がるホリデーシーズンを終えると、イースト川とハドソン川を渡り、ニュージャージー州にある日系大型スーパーマーケットのミツワに出向く。私たちにとって、年末の恒例行事。

好物ではないおせちのかわりに、私の推しは年越しそばと餅。どちらも選択肢がたくさんある。さらに、おそばの薬味選びと、きなこや海苔など餅の食べ方のバリエーションも広がる。「砂糖醤油もうまいんだな」と話していると、たちまち空腹に。フードコートで、食べたいものを載せたトレイを持ち寄り、腹を満たす。最後に、同じ敷地内にある書店で本や文房具を前に、年越し前な上にもらう予定もないお年玉を握りしめた感覚で、欲しいものを吟味する。そして、また二つの川を越えて帰宅する。

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ニューヨークの街角にある、日本の日常

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海外で暮らす日本出身の友人たちには、住む場所に日系のお店が少ない場合もあるようだ。なので、ニューヨークに遊びに来たのに、一時帰国したのでは?と見紛うほど、日本のものを荷物に詰めて帰っていく。かれらがうっとりするのもわかる。西海岸のような規模の日本街こそないけれど、ニューヨークでは、日本の日常に身を置ける場所がたくさんの街角に潜んでいるのだから。友人たちの話を聞くたび、この街は恵まれていると痛感する。

私の両親は、長いこと英国のロンドン郊外に住んでいた。1980年代の話だ。日本のものは滅多に手に入らず、文庫本を擦り切れるまで回し読みしたとか。料理においては、代用品を使うなど工夫を凝らし、腕を上げたと聞く。それはそれで興味深いとはいえ、2020年代のニューヨークでは、代用品ではなく「そのもの」が手に入りやすいことに、ありがたさを覚える。料理の腕が横ばいなのはそのせいかも、なんて。

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支え合い、寄り添い合いながら

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北ブルックリンに住んで約5年、ここの街角にはミドリヤがある。12年以上前から同じ場所で営業しているそうだ。今ではヒップな一角として知られるこのエリア──開店当時は倉庫が並ぶインダストリアルな場所だった、とお店の方は話す。最近は近くに有名大型スーパーマーケットもでき便利にはなったけれど、日本の日常が溢れる小さな空間での買い物は、この界隈ではミドリヤだけのもの。英語と日本語が飛び交う中、客たちは日本のものをカゴに入れていく。「毎度ありがとうございます」「また来ます」帰りがけ、私はジャピオンももらって行く。

ニューヨークとその近郊の街角で、「どうってことある」を揃えて私たちを出迎えてくれる、数々の日系のお店…こちらこそ、いつもありがとう。そしてこれからも、支え合い、寄り添い合っていきたい。

 

COOKIEHEAD

東京出身、2013年よりニューヨーク在住。ファッション業界で働くかたわら、市井のひととして、「木を見て森を見ず」になりがちなことを考え、文章を綴る。ブルックリンの自宅にて保護猫の隣で本を読む時間が、もっとも幸せ。
ウェブサイト: thelittlewhim.com
インスタグラム: @thelittlewhim

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