木を見て、森を見て、木として考えるコラム

<第6回>コンポスト用の小さな茶色いゴミ箱は、ニューヨーク生活のシンボルになる?

ふたがしっかり閉まる、小さな茶色いゴミ箱。ジャピオン読者には、馴染みのある方々も、見覚えがない方々もいるだろう。ブラウン・ビンと呼ばれるこの茶色いゴミ箱を使う、カーブサイド・コンポスティングの再開が、今年に入り本格化している。一般家庭が、生ゴミを中心とした有機物を分別しブラウン・ビンに入れて出し、それを市衛生局(DSNY)が回収して堆肥化する取り組みだ。

市で出るゴミの3割は堆肥化可能だそう。これを地域内で回収・処理する循環モデルを作り、菜園で活用したりエネルギーとして利用する。そして州外の埋立地に送るゴミを減らす。どれも環境の観点から望ましいだけでなく、市のコスト大幅削減も期待できる。

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市運営のコンポストプログラムが、軌道に乗らなかった3つの原因

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ニューヨーク市のこの取り組みは決して新しくなく、着手はブルームバーグ市長任期の2013年まで遡る。けれども、「全ての」ニューヨーカーにとって当たり前にはならなかった。指摘されてきた原因を振り返りながら、今回の再開を機に、小さな茶色いゴミ箱が皆にとって生活の一部になる今後を考えたい。

まず一つ目は、対象者が限定的だったこと。一部の地区のみで実施していたのに加え、対象建物は個別住宅か小規模集合住宅のみ。それ以外は申請制だった。

二つ目の問題は、参加世帯が少ないことから生じた。当然回収される堆肥化可能ゴミの量が限られ、かえってコストが高くついてしまう。衛生局職員も回収をルーティン化しづらい。

そして三つ目は、住民からの理解獲得のための啓蒙が行き届いていなかった点だ。リサイクル可能なゴミの分別すら曖昧な一般市民もいる中で、食品廃棄物の分別に関する啓蒙やサポートは不充分で、対象者であっても、堆肥化可能ゴミを一般ゴミと一緒に出していた機会損失がある。

このように課題が多く残った状態のまま、2020年のパンデミックでこのプラグラムは予算削減から停止状態になり、市内に設置された回収場所に一般住民が持ち込むという形で実施されてきた。

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2023年の本格的再始動では、全5区、全世帯が対象に

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そこから3年、市議会では「ゼロウェイスト法案」が通過し、本格的に再始動した。クイーンズ区ではすでに3月から、ブルックリン区は来たる10月、ブロンクス区とスタテンアイランド区は来年3月、マンハッタン区は来年10月と、それぞれ開始時期も決まっている。とうとう全5区で全世帯が対象になるのは、極めて大きな拡張と言える。

DSNYのウェブサイトでは、ブラウン・ビンの無料注文を受け付けているので、まだ持っていない方は手配したり、集合住宅の場合は管理会社などに確認してみて欲しい。同サイトでは、食品廃棄物とその他の分別回収対象有機物に関する情報、ゴミ出しの方法、回収スケジュールも記載されている。また、実績の一般公開も今回の法案で定められており、すでに再開しているクリーンズ区のデータを閲覧できる。図書館などの公共施設では、コンポストの重要性を説く学習会などが開催されている。

今回の再始動が軌道に乗れば、ニューヨーク市は全米最大規模の「コンポスト都市」になり得る。埋立地送りになるゴミの8割削減にすでに成功しているサンフランシスコ市は、規定外のゴミ出しをした建物管理者には罰金を課すそうだ。ニューヨーク市も、似た仕組みを導入する可能性がある。

さらに、一般家庭だけでなく、飲食店や食品小売業者など食品廃棄物を多く出すビジネスへのアプローチも別途強化されていく。

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ゴミ出しの「めんどう」はゴミそのものを減らす工夫につながる

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多くのニューヨーカーにとって、ゴミ出しが以前より「めんどう」になるだろう。すると、それがゴミそのものを減らす工夫に繋がるかもしれない。

世界中で異常な気象現象や環境汚染の被害が確認されている今、小さな茶色いゴミ箱が、ニューヨーク生活のシンボルになっていくことに期待したい。

 

COOKIEHEAD

東京出身、2013年よりニューヨーク在住。ファッション業界で働くかたわら、市井のひととして、「木を見て森を見ず」になりがちなことを考え、文章を綴る。ブルックリンの自宅にて保護猫の隣で本を読む時間が、もっとも幸せ。
ウェブサイト: thelittlewhim.com
インスタグラム: @thelittlewhim

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