木を見て、森を見て、木として考えるコラム

<第4回>次々英訳される、女性作家による日本の純文学

Sayaka Murata、Mieko Kawakami、Natsuko Imamura、Yoko Ogawa… よく行くいくつもの書店で、馴染みのある名前がアルファベットになっているのを目にする。

かつては、米国で英語で読める日本文学といえば村上春樹が圧倒的人気で、あとは、いわゆる文豪のいわゆる名作が数冊、日本文学コーナーにひっそり佇む程度だったのに。今では、日本の女性現代作家の、特に純文学が次々英訳され、書店の入り口付近で平積みされることも珍しくない。

さらには、韓国や台湾にルーツを持つ柳美里や李琴美など、日本を拠点に日本語で書く現代女性作家の英訳出版には多様性も見られる。英語に限らず多言語に翻訳されていて、世界各国の文学賞に選ばれる事例も増えている。

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「翻訳された女性作家の月」の8月、
彼女たちが描く「普通」とそれへの抵抗を考える

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8月は、出版社、書店やメディアが「翻訳された女性作家」を紹介・推薦する「Women in Translation Month」。そこで今回は、翻訳された女性作家の中でも特に日本の純文学が米国で注目される現象について、私なりに考えてみたい。

多くの書店で見かける、第155回芥川賞を受賞した村田沙耶香の「コンビニ人間」。36歳未婚の女性主人公は、大学時代から18年間コンビニでアルバイトを続けている。孤独な社会不適合者と周りは心配するが、彼女はむしろその心配こそ不思議に思う。

人々が順応してきた「普通」と 「異常」、「変化」と「不変」の概念。これらが万人に共通だと信じ込む社会のあり方。こういった「当たり前」が実はとても脆いことを、主人公の目線から不気味なほど軽快に描く本作─私が初めて読んだ時の印象は、「エグい」だった。では、米国の読者はこの小説をどう読むのだろう。

そもそも、生活に必要なあらゆる商品・サービスを提供し、接客が徹底し、24時間蛍光灯を灯し続ける日本式コンビニが点在する状態は、この国にはない。

なので、cookie cutter(紋切り型)なコンビニで型にはまる労働をする、いわば記号的なコンビニ店員をあえて続けることに合理性を覚える主人公の物語は、米国ではきっと、私が感じた以上に「エグい」。「『普通』ってなんだ!?」と大混乱するほど衝撃的かもしれない。

繊細かつ力強い筆力で知られる、川上未映子はどうだろう。第138回芥川賞受賞作「乳と卵」は、異世代の複数の女性たちを通して、人生の各段階で持つ悩みや、それに伴う体の変化への困惑を著す。

女性の体や生き方とその決定について、世間が求める「普通」。それに対して、体と人生の持ち主である女性主人公たちが抱く抵抗。彼女らの葛藤、苦悩や憤りに痛みを覚えると同時に、それらが言葉で表されることに喜びも残る。

米国でも往々にして、社会的または司法的に、体や生き方に関する個人の選択や決定に、他者が圧を加えることはある。ゆえに、この本で言語化された抵抗は、読み手のジェンダーによらず、この国でも直接的に響くのが想像できる。

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「普通」そのものは多様でも、
「『普通』を問う」文学への関心と欲求は共有できる

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村上春樹が、色彩豊かなマジカル・リアリズムで米国の読者を魅了したとしたら、村田沙耶香や川上未映子をはじめ、この国では「新しい」作家たちは、国境や言語を越え、「普通」に対する問いを投げかける。

個性を生かすと言われる米国の「普通」は、日本より範囲は広いかもしれないけれど、同時に極めて似た側面もある。どちらにしろ、そこから外れると生きづらいのは同じだ。誰かが決める「普通」に縛られたくない! 米国の読者は、女性作家による日本の純文学に、「普通」への抵抗の様々な形を見出しているのかもしれない。とすると、「普通」そのものには多様な状態があるとしても、「『普通』を問う」文学への関心や欲求こそが、共有されていると言えるのかな。

日米どちらの社会も知っているジャピオン読者は、多いと思う。私たちがこういった作品から改めて得る気づきも多い。英語で本を読む友人や家族ともシェアしやすくなっているので、「翻訳された女性作家の月」である今月は、周りに紹介したりプレゼントするいい機会かもしれない。

 

COOKIEHEAD

東京出身、2013年よりニューヨーク在住。
ファッション業界で働くかたわら、市井のひととして、「木を見て森を見ず」になりがちなことを考え、文章を綴る。
ブルックリンの自宅にて保護猫の隣で本を読む時間が、もっとも幸せ。
ウェブサイト: thelittlewhim.com
インスタグラム: @thelittlewhim

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