木を見て、森を見て、木として考えるコラム

<第3回>コンパニオン動物(ペット)とどう付き合っていく?

9年前の7月、私とパートナーは、地域のシェルターで出会った猫の里親になった。基本的な個人情報と友人・同僚からの推薦状を提出し、住環境審査と講習会を経て引きとった猫。元路上暮らしで、当時2歳にしては小柄だった。今ではだいぶふっくらし、私たちと暮らしている。

私が育った東京では、小型動物の生体販売をあちこちで目にする。愛くるしい表情の様々な小型動物は、ときに目を疑うほどの高価格で販売され、それを裏付けるべく「品質」が記載される。そういったお店を、ニューヨーク市内で見る機会は極めて少ない。この街では、保護猫の里親になる選択は自然だった。

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犬や猫、ウサギの生体販売を禁止、
ブリーディング規制する州法案

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来年には、その状況はより強化される。少ないとはいえまだ残るペットショップでの、犬や猫、ウサギの生体販売を禁止する州法案が、2024年に施行される予定だからだ。それまで生体販売をしてきた業者には保護動物譲渡会を開催し、協業するシェルターから場所提供料を得ることを促す。この法案は、州内のブリーダーによる該当動物の販売も、1業者につき年間9体までに制限する。

背景には、小型動物を「商品」として扱い、劣悪な環境で大量に繁殖・飼育し、販売する業者が多い現状がある。その「生産」では、量とスピードに加え、「消費者」が求める見た目の愛らしさ、世話のしやすさや血統なども重視される。さながら「商品開発」のようにブリーディングが繰り返され、その結果、先天性の疾患や苦痛を持つ動物も生まれる。こういった動物たちは、ペットショップに流れるか、個人取引される。

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絶えず生まれ、増え続ける
犬や猫などの小型動物たち

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一方で、人に手放されたり路上で生きる犬や猫などが多く存在することも、忘れてはいけない。自然繁殖のスピードに保護が追いつかず増え続け、「処分」される命もある。人間中心主義的で無責任な「産業構造」と「消費」が、この悪循環を加速させる。

今回の法案には反発の声もある。運営環境に配慮した「優良」業者や、人がアレルギー反応を起こしにくい小型動物に特化した「専門」業者も、廃業に追い込むのでは? 州をまたいだり、ネットでの取引が増えるだけでは?

「優良」もしくは「専門」業者だとしても、人の利益のためにつくられた生を売買する行為の正当化は、私には難しい。とはいえ、さらに突き詰めると、究極の問いが浮かぶ。どれだけ愛情を込めたとしても、私たちが猫と共に暮らすこと自体、正しいのかな…。猫に聞いたところで、返ってくる「ミャー」が意味することは、私にはわからない。

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まずは、すでに存在する小型動物の命の保護を。
そして、これからについて考える

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特にこの街のような都会の場合、路上で暮らす犬や猫などには、気候は厳しく外的危険も多い。鳥などに危害を与えることもあると聞く。すでに存在する、人間がつくり出した小型動物が安全で健康に長く生きていくには、保護することは考えられるもっとも理にかなった方法だと信じたい。これをより一般化するには、里親条件には慎重さを保ちつつ柔軟さも必要になるし、高額になり得る動物医療や保険の制度見直しも問われるだろう。

そして繁殖や販売を規制するコンパニオン動物は、犬や猫、ウサギに限らず、魚、鳥、爬虫類などにも拡張されるべきだと思う。加えて、人が小型動物と暮らす形態の範囲を広げると、そこには盲導犬などのサービス動物や、精神的安定をもたらすことを目的としたセラピー動物もいる。その議論をするには、多岐にわたる視点と深い知見を要する。

今回の法案が、実際の効力を超え、多くの人々が人と動物との付き合い方を今いちど考えるきっかけになることを願う。

私の作業を中断するほど甘えた次の瞬間には、背を向けて寝入る気まぐれな猫をなでながら、彼女と出会った9年前の初夏を思い返す。今回のテーマは、保護猫と暮らす私たちも、引き続きずっと向き合っていくべきだと感じている。

 

COOKIEHEAD

東京出身、2013年よりニューヨーク在住。
ファッション業界で働くかたわら、市井のひととして、「木を見て森を見ず」になりがちなことを考え、文章を綴る。
ブルックリンの自宅にて保護猫の隣で本を読む時間が、もっとも幸せ。
ウェブサイト: thelittlewhim.com
インスタグラム: @thelittlewhim

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