アメリカでの健康と医療

第13回 がん患者体験記「米国で突然がんになった」 後編

在米日本人の健康と医療をサポートする「FLAT・ふらっと」がお届けする連載。アメリカで健康な生活を送るために役立つ情報を発信します。


当団体の理事であり薬学学士、医学博士としても活躍する清水佐紀さんが、米国でがん診断を受けた体験談を紹介。前編はこちらから。

患者の選択を尊重する医療

前編では米国で突然のがん告知に続き、手術の結果、進行が早く予後が悪いがんだと告げられたと書いた。入院先の医師たちは、本当に優しく、私の色々な選択を否定することなく接してくれた。私は分子生物学の研究者でもあり、自分が参加できる可能性のある臨床試験を見つけたので、それに必要だと思われる検査の実施を願い出た時も、主治医は問題なく対応してくれた。

手術の数日後には、執刀医とは別の医師、看護師、ソーシャルワーカー、牧師などから構成される緩和ケアチームが用意された。私は特定の宗教を信仰しているわけではないので、牧師は不要だと告げたところ、すんなり受け入れてくれた。緩和ケアチームのミーティングには、私だけでなく友人たちも参加できた。

入院患者の朝は早い。朝4時頃に起こされ採血。その結果を見て医師が病室に来るのは朝食前である。朝食はゼリー二つとカリフラワースープ。まずいと先生に文句を言うと差し入れの許可がおり、友人が近くのスーパーで買ったものや手作りのお弁当を届けてくれた。40センチ近く腹部を切開したためか、1週間前には当たり前にできていたことが全くできなかった。リハビリで歩行訓練をし、階段の上り下りの練習もした。小さな合併症で入院は延びたが、それでも1週間で退院した。

米国で治療するか、日本に戻るべきか?

確定診断が出て両親に伝えると、すぐにでも日本に帰国し、治療をするよう言われた。だが、私は迷っていた。考えていた臨床試験には、検査の結果、私は条件にあてはまらないことがわかったものの、最先端の治療は米国の方が選択肢が多い。日本でまだ認可されていないその他の治療方法も米国にいれば試せるだろう。しかし、現実問題として、これからの治療に一人で耐えられるのだろうか。それに今後も長く続くだろう治療に、友人たちの手を煩わせたくないとも思っていた。

最終的には家族のいる日本に帰って治療を受けることに決めた。米国に残る選択をして、新型コロナウイルスの状況がさらに悪化し、家族に会えずに私の人生が終わってしまったら、日本にいる私の家族たちは後悔で立ち直れないかもしれないと思ったからだ。日本に帰って治療を受ける考えを医師に伝えると、医師も賛成してくれた。

米国の病院から自分の医療記録を入手するのはとても簡単だ。書類にサインするだけで全ての情報がすぐにもらえる。新型コロナウイルスの影響で窓口対応が困難な時期だったが、帰国前に100ページ以上にのぼるカルテ情報はオンラインで送ってくれ、また、CTスキャンの画像データはCDにして郵送してくれた。さすがに英語で書かれた大量のカルテ情報をそのまま日本の医師に渡すのは迷惑だと思い、簡単に自分で要約、翻訳し、セカンドオピニオンを受診するときに持参した。

セカンドオピニオンの重要性

セカンドオピニオンの過程で、手術時の検体を米国から取り寄せ、再度、日本で病理診断をすることになった。その結果、米国での当初の見立てほど、予後は悪くないがんだとの再診断がでた。セカンドオピニオンとは、「治療法の選択肢」について主治医以外の医師の意見も聞いてみることだと思っていた。まさか診断そのものが変わるとは思っていなかった私はかなり驚くとともに、米国でセカンドオピニオンを受けなかったことを後悔した。

私の抗がん剤治療は8回で、最初の1回は2泊3日の入院だった。米国と違って日本の病院への入院には、お箸や着替えなどを持ち込む必要があった。

がん治療を終えた今、在米の仲間を支えたい

そして、幸運なことに、日本の医師の診断通り、抗がん剤治療がうまくいきNED(ノー・エビデンス・オブ・ディジーズ:疾患の所見がない)という状態に回復。10カ月後には米国に戻り、翌月から仕事に復帰できた。新型コロナウイルスで世界が翻弄される中、米国で突然がんになった私だが、幸運なことに素晴らしい友人、家族に恵まれて、がんと戦うことができた。

米国という異国の地で、がんなどの病気に直面した日本人を支える「FLAT・ふらっと」を立ち上げる機会に恵まれた時、私がこの活動をすることは、友人たちへの恩返しにもなるのではないかと思った。そして、私の友人たちが私に手を差し伸べ、助けてくれたように、「FLAT・ふらっと」が在米日本人の皆さまの健康を助け、寄り添う役目を果たせることを切に願っている。


今週の執筆者

清水佐紀

FLAT・ふらっと理事。薬学学士、医学博士

東京医科歯科大学大学院にて医学博士を取得後、カリフォルニア大学ロサンゼルス校AIDSインスティチュートでエイズの遺伝子治療開発の研究に従事。現在はベイ・エリアのバイオテック企業で遺伝子治療研究者として勤務。


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「FLAT・ふらっと」は、乳がんと婦人科がんの患者、がん患者全般、高齢者、特別支援が必要な子どもを持つ保護者、介護者など、在米日本人の健康を、広い範囲でサポートする団体です。

Website: www.flatjp.org

Email: info@flatjp.org

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