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在米日本人の健康と医療をサポートする「FLAT・ふらっと」がお届けする連載。アメリカで健康な生活を送るために役立つ情報を発信します。
卵巣がんは、世界の女性のがん死亡の第5位で、婦人科がんの中で難しい病気の一つです。今回は、そんな卵巣がんのあれこれについてお伝えします。
「卵巣がん」にも色々ある
卵巣がんとひとくくりにされがちですが、実は、がん細胞や組織の形態によって細かく分類され(病理組織型と言います)、特徴が異なります。
●高異型度漿液性がん:
卵巣がんの約3分の1を占め、半数以上の患者さんが進行した状態で発見されます。一方で、かなり進行した状態からでも手術、抗がん剤、分子標的薬などの組み合わせによって、劇的に治療が奏効することもあります。実はこのタイプのがんのほとんどは卵巣ではなく、卵巣のすぐそばにある卵管から発生していると言われています。
●明細胞がん:
子宮内膜症を持つ患者さんに発生しやすいことがわかっています。また、人種差があり、特に日本人を含むアジア人に多いです。米国では卵巣がんの中の5%ほどと少数ですが日本では約4分の1を占めます。進行した状態で発見されると、化学療法が効きにくく、とても厄介です。
●粘液性がん:
腫瘍の中に大量の粘液を含むのが特徴で、しばしば巨大になります。早期に発見されることが多いですが、化学療法が効きにくいのできちんと切除できるかどうかが重要です。
その他にも類内膜がん、低異型度漿液性がんなど、多くの病理組織型があり、それぞれに合わせた治療が必要です。これらは、あらかじめMRIなどの画像検査や手術中の腫瘍の見た目によって予測がつくこともありますが、最終的には病理組織診(顕微鏡でがん細胞の形態や特徴を見ること)によって診断されます。
卵巣がんの検診、早期発見、予防は難しい…
ではなぜ卵巣がんは難しい病気なのでしょうか? その理由の一つは、検診や早期発見の難しさにあります。
卵巣はお腹の中の奥深くにあり、体の表面から触ることができません。卵巣を観察する際に、頻用されているのは超音波検査ですが、正常の大きさの卵巣はうずらの卵ほどのサイズしかなく、とても見づらいです。したがって、定期的に検診してもがんが発生しているかどうかを見分けるのは極めて困難であり、超音波検査で十分見えるような大きさになるころにはすでに進行してしまっている、ということがよく起こるのです。
また、卵巣は、広いお腹の中の空間に浮かんでいるようなものです。そのせいで、卵巣がんが発生して多少大きくなっても特に症状がなく、いよいよ腹水が溜まってきてお腹がパンパンになって初めて病院を受診される、という方も多いのです。
卵巣がんには、残念ながらワクチンのような予防法も存在しません。卵巣がんの予防や早期発見は医師や研究者の間でもトピックになっています。いい方法が開発されることが待ちのぞまれます。
遺伝性乳がん卵巣がん症候群(Hereditary Brest Ovarian Cancer: HBOC)
卵巣がん、特に高異型度漿液性がんの約10〜15%程度に遺伝が関与しています。BRCA1あるいはBRCA2という遺伝子は、傷がついた他の遺伝子の修復に関わっていますが、これらのBRCA遺伝子の変異があると、遺伝子の傷をうまく修復できず、がん化しやすくなってしまいます。このBRCA遺伝子の変異が親から子に遺伝するのが遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC、エイチビーオーシーまたはエイチボック)です。
親が保因者の場合、50%の確率で子に遺伝します。この遺伝子変異があると、生涯に卵巣がんを発症する率がBRCA1変異であれば約40〜60%、BRCA2変異であれば20〜30%程度と報告されています。これは、一般の人の卵巣がんの生涯発生率が約1%であることを考えると、とてつもなく高い数字であることがわかります。
HBOCでは、乳がんの方がより若年で発症しやすく頻度も高いため、卵巣がんはその陰に隠れがちですが、前述の通り、卵巣がんは早期発見しにくいため、非常に問題になります。
最近は、変異を持っていることが明らかになった方に、手術で予防的卵巣卵管切除を行うことも普及しつつあります。遺伝が関与するため、子供を含む身近な血縁親族にも影響があり、十分なカウンセリング体制の構築が近年の課題になっています。
今週の執筆者
村上幸祐 婦人科腫瘍専門医
2008年神戸大学卒業。2014年近畿大学産婦人科助教、2020年同医学部講師。2022年ジョンズホプキンス大学博士研究員。婦人科腫瘍を専門とし、手術、化学療法、緩和医療など幅広く従事。医学博士、産婦人科専門医・指導医、婦人科腫瘍専門医、腹腔鏡技術認定医など資格多数。
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