アメリカでの健康と医療

第9回 私の子宮頸がん闘病体験〜予防、早期発見のために

在米日本人の健康と医療をサポートする「FLAT・ふらっと」がお届けする連載。アメリカで健康な生活を送るために役立つ情報を発信します。


こんにちは。子宮頸がんサバイバーの小郷杏奈です。1月は子宮頸がん啓発月間です。私の闘病体験談を通して、皆さんがこの病気の予防、早期発見に関する正しい知識を得るきっかけとなればと思います。

人生を一変した試練、子宮頸がん

私の人生をがらりと変えてしまうことになった試練、それは2021年、新型コロナパンデミック最中の子宮頸がんの告知に始まります。今は根治し、告知から3年が経ちましたが、あの時の驚きと絶望は今でも忘れられません。これから家族を持ちたいと思っていた矢先、32歳にして子宮全摘の手術と放射線治療が必要となりました。妊娠できなくなってしまった身体。治療の副作用と再発を常に意識しながらの治療後の生活。21歳から一度も子宮頸がん検診を欠かしたことがなく、健康にも自信があったにも関わらず、「なぜ私が?」という気持ちが拭えませんでした。また、この病気にかかってしまったことに対する罪悪感や自責の気持ちが芽生え、一部の家族、友人以外に病気のことを打ち明けられませんでした。

正しい情報と知識で、病気の予防と早期発見を

この経験から生まれた使命、それは、子宮頸がんをとりまく状況と人々の認識を変えること。子宮頸がんは珍しい病気ではないにも関わらず、正しい情報が広まっていません。それどころか様々な誤解や偏見が正しい予防の機会を逃す原因にさえなっています。自分が予防できたかもしれない病気にかかってしまったことが悔しくて、この病気に関して無知だった自分に怒りを覚えました。世界的に子宮頸がんの撲滅が目指されている中、日本では子宮頸がんの患者数が増えている状況を知り、なんとかしたいと思いました。この悔しさ、怒りをバネに、現在は啓発活動に携わっています。

闘病の経験談を通して伝えたい、二つのメッセージ

私がこの体験を共有することで、お伝えしたいことが2点あります。一つは、皆さんに子宮頸がんという病気について知ってもらい、一人でも多くの方の予防につながってほしいということです。私の場合は、定期的に受けていた子宮頸がん検診のおかげで早期発見でき、ステージは1b2でしたが、それでも子宮全摘という人生を大きく変える手術、治療が必要でした。当時は、日本企業の駐在員として忙しい日々を送っており、あの時、コロナや仕事を言い訳にして健康診断を先延ばしにしていたら、もっと病気が進行していた状態で見つかっていたかもしれません。決して自覚症状がなくても検診は軽視せず、またHPVワクチンに関してもご自身の年齢や状況に合わせて接種すべきかどうか医師に相談してください。

そしてもう一つは、今この病気と闘っている人が、孤独や罪悪感を感じないでほしいということです。子宮頸がんは誤解や偏見がつきもので、話題にすることが憚られることもあるでしょう。しかし、多くの子宮頸がんの原因となるHPVというウイルスは、思ったより身近に存在します。そして、罹患してしまったことは誰のせいでもありません。私たちがよりオープンに、子宮頸がんやHPVウイルスについて話ができるようになることが、近い将来この病気を撲滅することにつながると私は信じています。

まずはご自身の健康を第一に考え、適切な検診を受けください。もし現在、孤独に闘病をされている方、治療後の生活を送られている方がいらっしゃれば、フラットのようなサポートグループに助けを求めてください。あなたは一人ではありません。

鈴木医師コメント

婦人科がんの専門的立場からまずは今回、杏奈さんのご経験、思いをこうして共有いただき改めて感謝いたします。子宮頸がんは「予防できるがん」です。まず、「がんになること」自体を予防できます。これは子供のうちにHPVワクチンを接種すること。二つ目は「がんを早期発見」できること。これは定期的な子宮頸がん検診(Pap testand/or HPV test)によって可能です。杏奈さんが経験されたように、検診を欠かさなくても手術や放射線治療が必要な子宮頸がんになってしまうことがあります。「HPVワクチン」と「子宮頸がん検診」の両輪が重要です。

また子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)は肛門や中咽頭(のど)のがんの原因になっていることもわかっており、男女ともに関わる話であることを是非覚えておいていただきたいと思います。


今週の執筆者

小郷杏奈

2021年に子宮頸がんを経験。子宮頸がん患者アドボケートのグローバルコミュニティー、Cervivorに所属し、自身の経験を生かして患者サポートや啓発活動に携わる。cervivor.org/stories/anna-o/

 

鈴木幸雄

婦人科腫瘍専門医

医学博士、産婦人科専門医・指導医、細胞診専門医、腹腔鏡技術認定医。これまで多くの婦人科がん患者の手術や化学療法を担当し、現在はコロンビア大学メディカルセンター産婦人科博士研究員として臨床研究中。在米日本人の健康と医療を支える「FLAT」の理事。Twitter: @yetii18


●サポートミーティング情報●

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スケジュールや詳細は、FLATのウェブサイトをご参照ください。この他にも、一般の方にもご参加いただけるセミナーなども企画中。

 

 

 

 


「FLAT・ふらっと」は、乳がんと婦人科がんの患者、がん患者全般、高齢者、特別支援が必要な子どもを持つ保護者、介護者など、在米日本人の健康を、広い範囲でサポートする団体です。

Website: www.flatjp.org

Email: info@flatjp.org

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