知っておきたい女性のヘルスケア

第21回〈後編〉卵巣がんになりやすい人とは?

女性のがん患者に寄り添うジャパニーズ・シェアがお届けする連載。アメリカで暮らす女性に役立つ最新医療情報を発信する。


今回も、婦人科腫瘍専門医の鈴木幸雄が担当します。前編では卵巣がんの特徴について、有効な検診方法がなく、発見時には進行していることが多いと書きました。早期発見が難しいことは事実ですが、卵巣がんを発症しやすいリスクを持つ方は早期発見が可能な場合もあります。当てはまる方は、主治医と相談のうえ定期的なチェックを行うことで、予防的治療も選択肢となるでしょう。

卵巣がんのリスクがあるのは大きく分けて、ある特定の良性の卵巣腫瘍(卵巣のう腫)が見つかっている場合と、遺伝的素因(生まれつきの潜在リスク)がある場合の2パターンになります。

卵巣腫瘍は、子宮頸がん検診の経腟超音波検査で見つかったり、妊娠初期に気付くケースなどがあります。妊娠初期に「少し卵巣が腫れている」と言われたことがある方もいると思いますが、これは妊娠を維持する役割の黄体が一時的に大きくなる(5センチ以内が多い)もので心配は要りません。卵巣腫瘍が疑われる場合は、MRI検査やいくつかの腫瘍マーカー検査(CA125やCA19─9などが代表的)によって良悪性や詳しい腫瘍の種類が診断されます。卵巣がんになりやすく注意が必要な良性腫瘍は3つあります。

要注意な3つの良性腫瘍

まず最初に、子宮内膜症性のう胞(チョコレートのう腫)は、特に注意が必要です。子宮の内側で毎月生理としてはがれ落ちる子宮内膜が卵巣にもできてしまい、生理周期に卵巣の中でも出血し、その血がたまって卵巣が慢性的に腫れる病気です。生理がある50歳前後までの方に多く見られ、4センチを超えるとがん化リスクが懸念され、10センチを超えるとさらにリスクが高まります。多忙な日常の中で、フォローアップに通うことが難しい場合もあるでしょう。私はこれまで、チョコレートのう腫を放置してしまい、進行卵巣がんになった方をたくさん担当してきました。そのたびに、もう少しリスクが伝わっていれば…と、悔しさを味わいました。

2つ目は粘液性のう腫です。腫瘍の中にねばっとした粘液がたまるタイプで、長年放置するとがん化のリスクがあります。

そして3つ目は成熟奇形腫です。これは若い人によく見つかる良性腫瘍ですが、高齢になるとごくまれにがん化するケースがあります。

こうしたがん化リスクがあるタイプの卵巣のう腫は、ある程度の大きさ(一概に言えませんが6センチ以上など)では手術での摘出を考えるべきですが、チョコレートのう腫では、大きさや年齢などにより薬物治療が有効な場合もあります。

遺伝的潜在リスク

次に、生まれつき卵巣がんになりやすい素因ですが、卵巣がんになる方の1割強は、先天的にBRCA遺伝子の異常を持っています。これは、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)の原因となる遺伝子で、日本人の場合200〜500人に1人がBRCA遺伝子に異常を持つと言われています。親族に乳がん、卵巣がん、前立腺がん、すい臓がんの方がいる場合は注意が必要で、男性も関係します。HBOCは、女優のアンジェリーナ・ジョリーさんのように、がん発症リスク低減のための予防的乳房切除や卵管卵巣摘出が選択肢になります。

さて、2回連続で卵巣がんの話をしてきました。いわゆるがん検診では発見が困難ですが、がん化のリスクがある場合では、正しい理解と適切なフォローアップや予防的治療を受けていくことで予防も可能です。卵巣がんについて少しでも知るきっかけになればと思います。

 

 

 

 

今週の執筆者

鈴木 幸雄

婦人科腫瘍専門医

医学博士。
婦人科腫瘍専門医、産婦人科専門医・指導医、細胞診専門医、腹腔鏡技術認定医。
Japanese SHARE臨床アドバイザー。
これまで多くの子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん患者の手術、化学療法を担当。
現在は、コロンビア大学メディカルセンター産婦人科博士研究員として臨床研究に従事。

 

 

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