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世界保健機関(WHO)は、65歳以上を高齢者、75歳以上を後期高齢者と定義しており、後期高齢者が多い社会ほど認知症も増えるという統計があります。日本は2021年10月時点で人口の約30%が65歳以上、そのうちの半数は75歳以上で、これからも後期高齢者人口が増えることから、認知症患者も急増するものと予測されています。ある研究では、認知症の発症が65歳で1%、80歳では10%、85歳以上になると25%と示されており、65歳以降は5歳ごとに発症率が倍増するといわれています。
最も多い認知症の型がアルツハイマー型で、全体の約半数を占めます。次いで多いのが脳血管性型、レビー小体型、前頭側頭型、混合型となります。それぞれに適した治療を行うためにも、これらの識別は重要です。
アルツハイマー病は、脳にアミロイドベータという老廃物がたまることで起こることが分かっています。アミロイドベータは30代くらいからたまっていくものですが、同時にそれを掃除する物質も体内に存在するため、そのバランスが取れていればアミロイドベータはたまらないようになっています。高齢になって認知症が増えるのは、加齢によりこのバランスが崩れるからだと考えられます。
認知症の症状は、脳のどの部位に先に支障が出るかで初期症状が変わってきます。アルツハイマー型は、脳の側頭葉の奥にある海馬という記憶をつかさどる部位と、そのすぐ後ろにある頭頂葉という空間認識をつかさどる部位に最初に支障が出ます。そうすると、まず記憶障害が起こります。
脳血管性型は脳血管が破綻することで起こり、前頭側頭型は、前頭葉にタウタンパクという物質がたまることで起こります。これらは、前頭葉の機能が低下するための症状がまず現れます。一般に「まだら痴呆」などといわれる脳血管性型の初期は、記憶障害よりも遂行機能障害(作業の計画が立てられない)や無関心、人格の変化、抑うつ、発音障害や嚥下障害などの症状が目立ちます。前頭側頭型では、無関心、無気力、引きこもり、同じ行動を繰り返す(同じものをたくさん食べるなど)、ルールを守れない(信号無視など)の症状がまず出ます。
レビー小体型も、脳の少し前部分にカプセル状の老廃物がたまることで起こり、初期症状としては記憶障害よりも注意障害(注意の持続が困難)が目立つことと、空間的な位置関係が分からなくなるという特徴があります。幻視(幻が見える)や、睡眠時の異常行動のほか、パーキンソン病に見られる手足の震えなども見られます。ちなみに、レビー小体型はパーキンソン病と同じだとされ、これら2つを合わせてレビー小体病といわれます。
単なる物忘れは部分的で、認知症の物忘れは時間軸そのものの記憶がバッサリ失われます。人の名前を度忘れするのは単なる物忘れですが、認知症はついさっきやったこと自体を忘れます。また、認知症はよく知った人の顔や名前を忘れ、場所や月日が分からなくなります。物事の判断や、計算もできなくなります。科学的にいえば、高齢になってからの単なる物忘れは脳の老化で、体験の一部を忘れるだけ。認知症の場合は脳の病気で、体験全体を忘れます。(後編につづく)
吉田常孝先生
Tsunetaka Yoshida, MD
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精神科医師、老年精神科医学指導医。
日本国外務省診療所勤務・診療所副所長。
2007年から3年間在ニューヨーク日本国総領事館で医務官として勤務。
その間ニューヨーク日系人会(JAA)高齢者問題協議会の活動にも参加し、高齢化する在米邦人コミュニティーの実態調査に尽力する。
NPOニューヨーク邦人医療支援ネットワーク(JAMSNET)の運営にも携わった。
日本厚生労働省日本厚生労働省
認知症施策ページ
www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/index.html
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