知っておきたい女性のヘルスケア

第17回 遺伝子検査でがんを予防?

女性のがん患者に寄り添うジャパニーズ・シェアがお届けする連載。アメリカで暮らす女性に役立つ最新医療情報を発信する。


最近は、がんと診断された方のほとんどが、MRIやレントゲンの検査をするように、遺伝子検査も受けるようになりました。

私が乳がんと診断された20年ほど前は、保険が適用されるのは、遺伝子検査費用をカバーできる健康保険に加入している、がんの家族歴があるがん患者だけでした。保険がない場合の検査費用は3400ドルだと言われたのを覚えています。

当時患者だった私は、遺伝子検査をするメリットが何なのかはよく分かっていなかったものの、将来的に自分の娘もかかる可能性が高い病気なのかどうかを、とにかく知っておきたくてこの検査を受けることにしました。

その頃はまだ、遺伝子検査というのは医療従事者にとっても開拓途中の分野だったようで、がんになりやすい遺伝子を次世代が受け継ぐか否か、という程度の説明しか患者にできない状況でした。しかし今では、遺伝によりがんに罹患(りかん)する可能性が高い方へ、予防策としての治療方法が提示されています。

がんを引き起こしやすい
遺伝子の変異

2013年に女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、BRCAという遺伝子の変異を理由に、予防策として両乳腺を切除する手術を受けたというニュースは、私たちに遺伝子と病気のつながりを身近に感じさせてくれました。また、この遺伝子の変異が乳がんと卵巣がんを引き起こしやすいと認識されたことで、患者にとっても受けたい検査の一つになっています。

以前は、たった1カ所しかないラボですべての遺伝子検査を請け負っていたそうですが、現在ではどこでもできる上、がんと診断され、家族歴もある方の検査費用はほぼ保険でカバーされます。日本でも最近になって、乳がんまたは卵巣がんと診断された方は保険が適用されるようになりましたが、それまでは希望者だけが高額な費用を自己負担して遺伝子検査を受けていました。

アメリカではこの遺伝子検査の結果によって、手術の範囲や、術後の治療方針内容まで変わってくるため、治療前に検査を受けます。また、遺伝子をターゲットとした分子標的薬の研究も進んでおり、乳がん、卵巣がん、甲状腺がん、肺がん、直腸がん、皮膚がんなどの新薬が開発され、すでにFDA(米国食品医薬品局)の承認を受けているものもいくつかあります。

がんワクチンの開発にも

前述のアンジェリーナ・ジョリーさんの報道があった頃、ある乳腺専門医が「乳がんの治療法が、昔から変わることなく乳房を切除する方法しかないのなら、医学が進歩したとは言えない」と発言していたのを覚えています。

現在は研究が進み、BRCAの遺伝子変異を持っていることが分かった若い人たちに、切除以外の選択肢が与えられるようになってきています。

乳がんの遺伝子検査の場合、100以上の遺伝子をテストします。自分が遺伝子変異を持っているか否かを知っておくことで、がんを防ぐための方針を医師と相談できる体制が整いつつあります。

これらの研究は、いろいろな製薬会社や研究機関で盛んに進められています。1971年に当時の大統領であったリチャード・ニクソンが「がん対策法(The National Cancer Act of 1971)」に署名し、「がんとの戦争(War on Cancer)」と称して、がんセンターの設立、研究者や医療従事者の育成を開始してから、50年以上が経ちました。

新型コロナワクチンの開発が猛スピードで行われ、大きな成果を生み出した今、そうした経緯が、がんのワクチンを作る上での大きな一助になるのではないかと期待されています。

多くの製薬会社や医療機関で遺伝子研究を行っていたことが、がんのワクチン開発に結び付いていく、という内容のウェビナーもよく見掛けるようになりました。

これからは、生後すぐに遺伝子検査を受けるのが当たり前になる時代が来るのかもしれませんね。

 

 

 

今週の執筆者

ブロディー 愛子
Japanese SHARE 代表

2001年に乳がんを経験。
13年より米国非営利団体「SHARE Cancer Support」に日本語プログラムを設立。
これまでにサポートした日系人の数は2000人を越える。
ICF認定ライフコーチ、アーキタイパル・コンサルタントとしても活躍中。
alliswellcoaching.com

 

 

 

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Email: admin@sharejp.org
Web: sharejp.org

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