究極の疲れないカラダ

なぜ何もしていないのに疲れるのか?〈その2〉

Q.年齢、性別、体重がまったく同じとき、どのタイプにいちばん腰痛が見られるでしょうか?

①姿勢の良い人
②姿勢の悪い人

正解は「どちらとも言えない」です。よく姿勢の悪い人が腰痛を起こしやすいと思われがちです。これは間違いです。

姿勢と痛みの関係にもいろいろなリサーチがあります。あるリサーチでは腰痛のある人とない人(計36名)の写真を、カイロプラクター、理学療法士、理学療法専門医、リウマチ専門医、整形外科医ら28名が、「正常、増加、低下」の3つ で姿勢(横から見た首のカーブ、腰のカーブ)を判定した結果、姿勢に対する見立てはほぼ全員が一致するものの、痛みの有無には関連がないことが明らかになりました。

そり腰だろうが、猫背だろうが、どれだけ姿勢が良かろうが痛い人は痛い、痛くない人は痛くないのです。

しかしここでややこしいのが、悪い姿勢だと故障しやすいのです。猫背で座る。腰を曲げて荷物を抱える。足を組んでだらっと座る。こうした姿勢は腰、首の椎間板に負担をかけるため、故障を起こしやすい、つまり怪我のメカニズムと同じなのです。

ですから、もし腰痛患者の姿勢が悪ければ、姿勢の改善を図ります。ただ、医者が「あなたは姿勢が悪いので、将来腰痛になります」と予言したら嘘になります。これが痛みと姿勢の関係です。

痛みの原因は姿勢や骨の歪みではなくディスファンクション(Disfunction)、機能障害です。ではそれですべての説明がつくかと言えば、それほど甘くはありません。痛みは、年収、学歴、性別、職業、飲酒、肥満、喫煙などとの相関が、さまざまな角度から研究されています。

とくにたばこと痛みの関係は1980年代から調査されていて、それだけで1冊に収まりきらない情報量があります。

慢性的な痛みを首、腰に一生抱える人と喫煙率との関係は非常に高いことがわかっていて、さらに頭痛、線維筋痛症、慢性関節性リウマチといった症状とも相関関係が見られます。今すぐ禁煙をするのに十分説得力のあるリサーチです。

ニコチンには一時的に痛みを抑える働きがあるものの、喫煙者のほうが痛みの感じ方が強いとのデータも出ています。血液循環が悪くなるというのも一理ありますが、脳の神経伝達物質や回路にニコチンが影響して痛みにつながるようです。「姿勢と痛みは関係ない」のは痛みを感じるのは脳だからであり、喫煙はその痛みを感知する認識システムに問題を起こすと言われています。

また、痛みの強さとニコチンの量、つまり中毒性のひどい人ほど痛みは増すという研究もあります。

わたしは「たばこ、アルコールに中毒がある人は痛み中毒になる」と患者さんに伝えています。日本ではたばこ、アルコールは嗜好品とされているものの、世界ではアルコールが法律で禁止されている国もあります。アルコール、たばこが世界でもっとも問題を起こしている依存性の強いドラッグであることは、もっと知られていい事実です。

これらのデータは世界の地域などによっては大きなばらつきもあり、完全に原因を絞りきることは困難です。しかし、WHOの統計で後進国を対象にしたデー タでも喫煙、飲酒、所得、学歴などと痛みとは明らかな関連性があります。

また、あるリサーチによると、腰痛の再発率は1年以内に50パーセント、2年後で60パーセント、5年後はなんと70パーセントと言われています。

つまり、腰痛は有無を言わさず繰り返しやすい症状であり、薬、注射、電気、整体マッサージなどの対処療法で解決するというのはまったく間違えた発想です。

痛みは、脳の感じ方から環境因子まであらゆることに関係するからこそ、機能運動性の向上を突破口として、生活習慣を見直しましょう。

 

 

仲野広倫
Hiromichi Nakano, DC

創業大正15年、仲野整體4代目。
幼少の頃から自然医療に触れて育つ。
日本の実家で修行を経て、単身渡米。
南カリフォルニア健康科学大学(SCUHS)卒業。
2019年パンアメリカン競技大会、2021年東京オリンピックにアメリカオリンピックチーム(TEAM USA)に正式帯同した唯一の日本人。
カイロプラクティック認定スポーツ医(CCSP)、認定学位(DACBSP)、ストレングスコーチ(CSCS)等の学位を所持しそれらスポーツ医学の知識とトップアスリートの診療経験から筋肉骨格系の症状を根本的に治す『機能運動医学』を考案。
カイロプラクティック、整体等の様に姿勢、骨盤のズレなどの見た目問題ではなく根本的なカラダの『機能運動性』を自分自身で理解、改善することで健康を維持できると書いた出版書籍の『世界の最新医学が証明した 究極の疲れないカラダ』『根こそぎ疲れがとれる究極の健康法』は累計16万部を突破。
アメリカトップレベルのアスリート、著名人の診療にもあたり、現在もミッドタウンにて自らのクリニックTAI NYCにて日々の診療にあたる。


著名人からのコメント

・「仲野さんにはぼくもニューヨークで何度も救われました」坂本龍一さん(音楽家)

・「ピードを落とさず働くために最高のアドバイスが詰まった本」南壮一郎さん(株式会社ビズリーチ 代表取締役社長)

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