知っておきたい女性のヘルスケア

第15回 【特別編】上手な年の重ね方

女性のがん患者に寄り添うジャパニーズ・シェアがお届けする連載。アメリカで暮らす女性に役立つ最新医療情報を発信する。


今回は特別編として、老年医学専門医の山田悠史が執筆いたします。みなさんは年を重ねることをどのように捉えていますか?

「年のせいで〇〇が痛くなった」とネガティブに捉える方も少なくないでしょう。老化が体に負の影響をもたらすことは確かですが、必ずしも悪いことばかりでなく、年を重ねたからこそ得られるものもあります。今回はそんなメリットをご紹介します。

老化というと脳の機能が衰退していくイメージを持つかもしれません。40〜50代の方から「物忘れがひどくなった」などと嘆く声を聞きますが実際にはどうでしょうか。

ワシントン州で行われたシアトル縦断研究では、加齢による認知機能の推移を見るため、1956年から6000人以上の観察を続け、7年毎に各人の認知機能がどう変化したのかを評価しました。研究論文によれば、計算や言語記憶などの能力は、平均的に60歳頃まではあまり変わりないがそれ以降衰退が見られ、74歳頃までには全能力が衰退し始めることが観察されています。

一方、空間認識や言語記憶、言語能力などは、20代よりむしろ40〜50代の方が能力値の平均が高いことが見られます。もちろん70〜80代まで維持するのは難しいものの、脳の機能というのは40〜50代まで成長し続けるようです。

同研究では、認知機能が低下した参加者の一部に認知トレーニングを行い、一定の認知機能の回復が見られたことも報告されています。このことから認知機能低下の一因は「頭を使わなくなること」にあり、トレーニングにより回復しうることも伝えています。脳は加齢とともに成長し、それを維持できる可能性があるのです。

加齢で成長する能力

また、年齢を積み重ねる中で得た「経験」は何事にも変え難く、それが知恵となり衰えた部分を補う役割も果たしてくれます。私も医学論文を読むなど日々知識を獲得しているつもりですが、それでもなお、年上の上司にはまだまだ勝てないと思うことばかりです。経験から得た知恵というのは、いくら勉強しても勝ることのできない大きな力になるのだということを感じさせられます。

また、経験を得て賢くなっていくのは脳だけではなく、実は免疫も同じです。人体は日々さまざまな病原体に晒され、感染症のリスクと向き合い続けていますが、頻繁に感染症にかからず済んでいるのは免疫の働きのおかげです。見知らぬ病原体が体内に侵入すると免疫がそれに立ち向かい病原体を駆除するのですが、一度侵入した病原体に対して免疫を記憶しておくことができ、病原体によってはそれが数十年も続くと考えられています。

免疫を担当する細胞の働きの推移を見てみると、70〜80代になると多少の衰退が見られてきますが、40〜60代にかけては若い頃よりも多様な病原体への免疫を獲得できているということも知られています。

例えば、風邪をひく頻度が減少することも知られており、20代の年平均が2〜3回に対し、50代以降では1〜2回になると報告されています。

また、適切な栄養摂取や運動、ストレスマネジメントが免疫機能の維持に寄与することを示す研究が報告されています。質の高いエビデンスではありませんが、これらを心掛けることで、年齢による免疫能の低下も抑えられるかもしれません。

「最高の老後」に向けて

老化というと、とかくネガティブな側面に注目しがちですが、ポジティブな側面もたくさんあります。加齢をどう受け止めるにせよ、生きている以上避けることはできません。年を重ねることは生きることです。「老化は良いことばかりだ」と言いたいわけではありませんが、「悪いことばかりでもない」と、加齢に対する捉え方を考え直すきっかけになればと思います。

老化によって何が起こり、どうすれば予防できるのかについて、拙著「最高の老後」に詳しくまとめましたので、お手にとっていただければ幸いです。

 

 

 

今週の執筆者

山田悠史
米国老年医学専門医

マウントサイナイ医科大学、老年医学・緩和医療科所属。
臨床医として活躍する傍ら、ニュースメディア「NewsPicks」のコメンテーターや音声コンテンツ「医者のいらないラジオ」など多岐にわたって活動中。
著書に「最高の老後『死ぬまで元気』を実現する5つのM」(講談社)他。
Twitter: @YujiY0402

 

 

 

ウェビナー

「上手な歳の重ね方」

10月1日(土)
午後7時〜8時30分開催!

今回の連載を執筆した山田悠史先生を講師に迎え、老化によりどんな変化が起こるのか、どうすれば予防することができるのか、死ぬまで元気でいるためにはどうしたら良いのかなどについて講演する。参加費無料。参加方法と詳細は下記ウェブサイトをチェック!

その他にも、一般の人も参加できるウェビナーや、患者限定のセミナーも開催しているので、詳細は下記のURLかQRコードをチェックしよう。URL: https://sharejp.org/schedule/2022/10/1

Japanese SHAREは、アメリカに住む、乳がん、卵巣がん、子宮体がん、子宮頸がんの患者さんを日本語でサポートする非営利団体です。

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