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私はそう思います。コロナ禍をきっかけに心の調子を崩した人は多いですが、それが全部コロナ禍のせいなのか、それともすでに潜在的にあった心の問題がコロナ禍で表面化したのか、よく考える機会だと思うのです。
患者さんから話を聞くと、もともと仕事が好きじゃなかった、過剰労働で疲れていたなど職場の問題や、家族の不仲、以前から心理的な葛藤を抱えていたことが判明することが多いです。普段なら何とか過ごせていたのが、コロナ禍という新たな負荷が掛かったことで、感染への恐怖や生活の変化への不安、不自由な生活からくるストレスなどがたまり、自分の許容量を超過してしまったケースがほとんどです。
コロナ禍というのは自分ではどうしようもないもの。それを何とかしようとすると余計に苦しくなります。治療のアプローチは、まずもともとあった心理的葛藤やストレスの原因を探り、それらの解決に取り組むことで、症状の改善を目指します。
私の外来でも、「どんな言葉を掛けたらいいでしょうか」と、患者さんのご家族から相談を受けます。
周りから見ていると歯がゆいので、「もっと頑張れ」と励ましたり、「ダメじゃない」と否定したり、「つらいのはあなただけじゃない」と批判したりしがちですが、これらはよくない例です。逆に、腫れ物に触るような接し方や、指導的・命令的な口調で「病院に行かなきゃダメよ」というのもいけません。落ち込んでいる人にこういう言葉を掛けると、余計に意固地になり、専門家の助けを求めるという本来必要な行動から遠ざかってしまいます。
ではどう言えばいいかというと、まずその人のつらい状態を肯定し、「つらいんだね」「しんどいね」と、その人の状態を受け入れ、共感する言葉を掛けましょう。そして、「最近疲れてるように見えるけど?」と、心配しているというメッセージを伝えます。そして、提案する口調で、「専門家に診てもらったらどうだろう?」「少し仕事を減らせないかな?」などと話しかけてみてください。
真面目な人ほど、コロナ禍でストレスをためる傾向にあります。「まだ自粛すべき。楽しんではいけない」と、コロナ禍が始まって2年以上たち、ただでさえストレスがたまっている今、楽しみまで我慢したら余計にストレスがたまります。
人と会ったり、みんなで集まったり、旅行をしたりすることを今でも我慢する人は多いですが、ワクチンを接種し、マスクを着用すべきところで着用し、手洗いを徹底しといった対策を講じていれば、やりたいことをやって、行きたいところに自由に行きましょう。
人間は、人との関わりが絶たれると生きていけない社会的生物です。コロナ禍で精神衛生を重視するなら、人との関わりは必須。「ソーシャルディスタンス(社会的距離)」という言葉が定着していますが、精神科医の立場からするとあれは間違いです。感染対策に必要なのは社会的距離ではなく、物理的距離(フィジカルディスタンス)です。コロナ禍だからこそ、人とのつながりを維持しましょう。感染対策をしっかりして、罪悪感を持たずに好きなことをやって、会いたい人に会って、行きたいところに行って、気分転換をすることをお勧めします。
松木隆志先生
Takashi Matsuki, MD
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精神科医師。東京医科歯科大学医学部卒業。
横須賀米海軍病院、同市立うわまち病院で初期研修修了。
来米後、NY市マウントサイナイ医科大学ベスイスラエル病院精神科で精神科専門医研修修了。
同病院精神科救急部部長・指導医を経て、現在マウントサイナイ医科大学精神科助教授・同医科大学モーニングサイド病院精神科救急部の指導医。
一般外来・ビデオ遠隔診療を提供。
INFORMATION
● 5 W. 86th St., #1A
TEL: 201-809-3508
● 1 Bridge Plaza North, #675
Fort Lee, NJ 07024
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