心と体のメンテナンス

長引くコロナ禍でのメンタルヘルス(前編)

ストレスサインを観察 柔軟に助けを求めよう

Q. 長引くコロナ禍のメンタル面への影響は?

A.

当初は、高齢者のメンタル面への影響が最も心配されましたが、結果的には若年層の方がずっと大きな影響を受けました。日本のデータですが、国立成育医療研究センターの調査で、2020年11月の時点で小学生の15%、中学生の24%、高校生の30%にうつ症状が見られたとのことです。

仕事を引退した年齢層や高齢者は、コロナ禍の緊急事態宣言下でもそう大きく生活が変わらなかったのですが、子どもたちは学校が閉まる、労働年齢層は在宅勤務になるなど、生活が一変してしまったことがその理由でしょう。

臨床現場から見ると、コロナ禍突入当初は、みんなが感染への恐怖や警戒といった外部の″急性のストレス〟に気を取られ、内面的なストレスにまで気が回らなかった分、精神科の外来患者は減りました。ところが、しばらくして急激に増え始め、長期化するコロナ禍のメンタル面への影響がいかに大きいか、今も実感しています。

 

感情・ストレスの現れ方

米国日本人医師会、日本クラブ共催の医療ウェビナーから

<ウェビナーリンク>

Q.コロナ禍で精神の健康を保つには?

A.

コロナ禍に限らず、メンタルヘルスの最大の敵は本人の自覚の乏しさです。ストレスをため、不安を感じている自分をまず受け入れましょう。特に日本人は、強くあること、ストレス・不安に耐えることを美徳として育つので、注意してほしいです。心が強いと自負している人こそ実は危ないからです。そういう人は、限界までストレスを我慢するため、ある日突然心が折れてしまいます。

逆に、ストレスを感じやすい人はつらいときはすぐに休息を取り、人に助けを求める傾向にあるので、長期的には強いと言えます。柔らかい柳の枝はすぐに曲がるけれど折れにくく、硬い枝は曲りにくいが折れやすいのと同じように、心の問題については、強さ・弱さではなく、しなやかさが鍵。ストレスを感じている自分を受け入れ、認めてあげることから始めましょう。

そもそもストレス反応とは、心身に負荷が掛かったときの動物の本能的な防衛反応です。例えば他の動物に襲われそうになったときに不安を感じ、危機を察知するのもストレス反応。ただ、野生動物の世界ではストレスは瞬間的なもので、慢性的なストレスにさらされる続けることはありません。人間も動物なので、瞬間的なストレスには対処できても、それがたまって慢性化・長期化した状態に弱いのです。

Q. ストレスがたまったサインとは?

A.

人間はストレスがたまると、3つのパターンで表現します(左上表参照)。①言葉にする(言語化)、②身体症状として現れる(身体化)、③行動として現れる(行動化)。自分でストレスを自覚できない人が多いので、これらのストレスサインを意識して、自分の心の状態の変化を観察してはどうでしょうか。

最も成熟した表し方が①言語化ですが、日本人、特に男性はこれが苦手なので、②身体化と③行動化に注意して自己観察しましょう。例えば、②は肩が凝る、頭痛がする、不眠など。子供が学校で嫌なことがあるとお腹が痛くなるのもこれです。③は、酒の量が増えるとか、突然ギャンブルにハマるとか、普段とは異なる行動を指します。ふさぎ込む、逆にハイパーになるなども③に該当します。

本人もですが、家族同士でお互いのストレスのサインに気を付けると、治療が必要なうつ状態になることを避けられるかもしれません。(後編につづく)

 


 

松木隆志先生

Takashi Matsuki, MD

_________________

精神科医師。東京医科歯科大学医学部卒業。

横須賀米海軍病院、同市立うわまち病院で初期研修修了。

来米後、NY市マウントサイナイ医科大学ベスイスラエル病院精神科で精神科専門医研修修了。

同病院精神科救急部部長・指導医を経て、現在マウントサイナイ医科大学精神科助教授・同医科大学モーニングサイド病院精神科救急部の指導医。

一般外来・ビデオ遠隔診療を提供。

 

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