知っておきたい女性のヘルスケア

第13回 患者と医師との関係の在り方

女性のがん患者に寄り添うジャパニーズ・シェアがお届けする連載。アメリカで暮らす女性に役立つ最新医療情報を発信する。


少し前のことですが、日本で開催された乳がん学会のセミナーを視聴する機会がありました。そのつながりで、これからの患者アドボカシーの在り方について、医師と患者を含む参加者たちと討論する会議にも参加しました。

その会議の中で、アメリカの学会などでは多くの女性医師が活躍の場を与えられているのに日本ではまだ少ないという指摘がありました。ある男性医師は、このような意見が出たことに驚いた様子ではあったものの、これから日本も考えていかなければならない課題だと発言していました。また別の男性医師も、その指摘に戸惑いを隠せない様子だったのが印象的でした。その他に、アメリカでは患者が医師にとってのお客さんのような印象を受けるという意見もありました。国民皆保険制度の中で医療を受ける日本と、各自で異なる種類の健康保険に加入するアメリカでは、医療従事者の態度も違うのかもしれないと感じました。

患者と医師との温度差

また、医師側から、臨床試験に参加してくれる患者が日本ではなかなか集まらないという問題点が提示されました。一方で、患者側からは臨床試験に関する十分な説明を受けられていないという意見が出ていました。いまだに研究材料にされてしまうのではないかという悪いイメージが拭い切れないようです。

アメリカでは治験と言われる新薬の効果を調べるための研究では、きちんとした説明を受け、自分の協力した研究が次世代の役に立つのであればと、よく理解した上で承諾する患者が少なくありません。私自身、アメリカのリサーチホスピタルで乳がんの治療を受けた際に、待合室で研究員から説明を受け、「これから血液検査で採取するあなたの血液を、私たちの研究にも使わせてもらえませんか?」と協力を依頼されたことが何度かありました。乳がんの治療が終わってからも、マンモグラムを使った新しい研究などにも参加しています。

患者に臨床試験への参加を承諾してもらうためには、医師側から納得のいく説明が不可欠です。その研究がどんなに崇高かということだけで、協力を得ることは難しいでしょう。医師側もその現状に気付く必要があり、どのようにしたら納得してもらうことができるのか、患者の目線で考えるべきかと思われます。

また、患者会の持つ影響力を知らない医師も多く、全ての問題が自分たち医師だけで解決できると考えているように見受けられることがあります。しかし、このような場面で手助けができるのは、患者のアドボカシーを推進する患者会です。実際に治験によって命を救われた経験者と、医療者側が手をつなぐことで、患者と医師、双方にとって大きな助けになるのではないでしょうか。

東京だけでも乳がんの患者会は200ほどあります。それらをまとめる機関がまだないなど問題点も見られますが、患者会を通して患者と医師の距離が縮まることで、これからの医療の在り方が良い方向に変わっていくのではないかと期待しています。

意志の主張も大切

アメリカには相手が誰であれ自分の意志を主張する文化があり、患者も医師と対等に自分の考えを伝えます。しかし、日本人は相手の立場を考慮した上で、自分の意志を尊重すべきか否かを決めるところがあるようです。自分の考えを押し付けがちな医師にも問題はありますが、全てを医師任せにして自分で判断のできない患者が日本人に少なくないことにも、危惧を抱いています。

新型コロナウイルスの影響で、テレメディスンが取り入れられるようになってから、アメリカのとある記事で「担当医とコミュニケーションがうまくいっていないと感じている患者は、医師を変えるいいチャンスだ」と報じていました。また、日本人は穏便に物事を解決しようとする方が多いため、扱いやすい患者だという誤解を与えているのではという懸念もあります。自分の健康を守るためには、勇気を持って意志を主張することも大切です。

 

 

 

今週の執筆者

ブロディー 愛子
Japanese SHARE 代表

2001年に乳がんを経験。
13年より米国非営利団体「SHARE Cancer Support」に日本語プログラムを設立。
これまでにサポートした日系人の数は2000人を越える。
ICF認定ライフコーチ、アーキタイパル・コンサルタントとしても活躍中。
alliswellcoaching.com

 

 

 

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【毎月第1木曜日:午後8時〜】
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その他にも、一般の人も参加できるウェビナーや、患者限定のセミナーも開催しているので、詳細は下記のURLかQRコードをチェックしよう。

URL: sharejp.org/schedule

Japanese SHAREは、アメリカに住む、乳がん、卵巣がん、子宮体がん、子宮頸がんの患者さんを日本語でサポートする非営利団体です。

TEL:347-220-1110(日本語ヘルプライン)
Email: admin@sharejp.org
Web: sharejp.org

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