心と体のメンテナンス

子どもの近視と矯正・進行抑制方法(後編)

近視は眼軸長伸長が原因
視力矯正と近視進行抑制

Q. 近視のメカニズムについて簡単に教えてください。

A.

近視は、外から入ってくる光の屈折状態によって、①角膜屈折力、②水晶体屈折力、③眼軸長(角膜頂点から網膜までの長さ)の3つの要素があり、昔は②説が主流でしたが、現在は、近視の発症と進行のほとんどは③眼軸長の伸長であることが分かっています。眼軸が長い人は近視になり、短い人は遠視の傾向にあります。

近視は小学生くらいから始まりますが、その年代は視力を自力で調節しようとする力も相当あります。ですので、検眼時にその調節機能が働きすぎて、結果的に過矯正メガネを作らないように、検眼時には調整麻痺薬を使うことが大事になります。過矯正は近視の進行を早めることが分かっています。

スマホやタブレットや、本など、近くばかりを見る現代っ子だが、外に出て遠くを見ることが、目の健康と近視の予防・抑制につながることが分かっている

Q. 子どもの近視の進行は抑制できますか?

A.

近視の矯正・抑制方法にオルソケラトロジーがあります。夜間ハードコンタクトレンズを装着して寝ると、朝の裸眼視力が一時的に矯正されており、1日中メガネやコンタクトレンズが必要なくなるという近視矯正法です。2002年に米食品医薬品局(FDA)が認可しています。小児における近視進行抑制にもある程度効果が示されています。

この方法のメリットは、メガネやコンタクトが必要なくなることですが、デメリットも大きいことを指摘しておきます。夜間装着時、角膜に平たいレンズを押しつけるので、角膜上皮が薄くなり感染症のリスクが上がることが一つ。そして、使用をやめた後に視力が再度低下するリバウンドの可能性があることです。

次に、近視抑制効果が報告されているものに、「マイオスマート」という多焦点メガネがあります。残念ながら日本とアメリカでは使用が認可されていません。

アメリカで認可されているものには、「MiSightワンデー・ソフトコンタクトレンズ」があります。8~12歳の近視度0・5から6(視力にすると日本表記で0・1から0・08くらい)に処方できます。

 

Q. アトロピンについて教えてください。

A.

低濃度(0・01%)アトロピン点眼剤は、米国眼科学会が「小児の近視進行抑制治療に最適」として認可しています。副作用もなく、使用を中止した後の大きなリバウンドの心配もないので、私も患者さんに勧めています。日本でも近視児童における低濃度アトロピン点眼剤の研究「ATOM―J」が行われ、2019年に効果ありとの報告がされています。

FDAの認可がまだ降りていないので、普通の薬局では扱っていませんが、薬を調合する特殊な薬局にクリニックから処方箋を送ると、患者の自宅まで点眼剤を郵送してくれます。保険がカバーしないので、40~50ドルの1カ月分コストは自己負担となります。

 

Q. 他に生活の中でできる近視の予防法は?

A.

長い間近くのものを見ないこと。よく暗い中でのスマホ使用による光が目に悪いのではと聞かれますが、それよりも、近くのものを見る時間が長くなることの方が問題です。1日2時間以上外で遊ぶことは、近視の進行を抑制する効果があるといわれています。

都市部の高学歴の人に近視が多いのも、本やコンピューター画面など、近くを見る時間が長いからです。外に出て遠くを見ることは、目の健康にとても重要なのです。

 

 

 

 

 

 

 

遊馬吉右衛門先生
Kichiemon Asoma, MD
_________________
眼科専門医師(Board Certified)。
ニューヨーク州立大学(SUNY)ダウンステート医療センターで眼科研修を修了。
専門は、白内障、緑内障、糖尿病網膜症、網膜剥離、加齢黄斑変性症、ドライアイ、アレルギーなどの目の病気と症状の治療、メガネ、コンタクトレンズの処方など。
レーザー照射による近視矯正手術(LASIK、PRK、LASEK)、角膜移植、角膜内皮移植(DSAEK)の特別訓練を修了。
SUNY臨床助教授。

 

 

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