知っておきたい女性のヘルスケア

第10回 アメリカのホスピスケア

女性のがん患者に寄り添うジャパニーズ・シェアがお届けする連載。アメリカで暮らす女性に役立つ最新医療情報を発信する。


今回は「知っておきたい女性のヘルスケア」の特別編として、私、コロンビア大学医学部の緩和医療科入院部門でディレクターを務める中川俊一が米国のホスピスケアについて説明いたします。

もともとホスピスとは巡礼者や貧しい人のための宿泊施設という意味です。発祥は欧州で、11世紀にまでさかのぼります。その後19世紀の後半から欧州各地で施設の設立が盛んになり、アメリカでは1970年代に広がりました。

ホスピスケアのゴール

日本では「ホスピス」という言葉が、しばしば終末期ケアを提供する施設のことを指すのに対し、米国では終末期に提供されるケアそのものを呼称するのに用いられます。

ホスピスケアのゴールは終末期の患者とその家族の苦痛を取り除き、QOL(クオリティー・オブ・ライフ)を高めることにあります。医師、看護師、ソーシャルワーカー、チャプレン(臨床宗教師)から構成されるチームによって自宅、ナーシングホーム、ホスピス病棟などで提供されます。訪問診療をメインに行い、急変時に24時間対応することにより、できるだけ在宅で最期を迎えることを目標としますので、日本の在宅医療に近いイメージかもしれません。

ホスピスプログラムは全米で年々増加を続けており、その数は現在6000近くになります。公的保険であるメディケアによると、2018年には全死亡者のほぼ半数である約155万人がホスピスケアを享受し、51・5%が自宅で、17・4%がナーシングホームで最期の時を迎えています。

医師が「余命が6カ月以内であろう」と考えることがホスピスケアを考慮するきっかけの一つになりますが、実際には①その疾患に対する治療のオプションがあるかないか、②自分の具合が悪くなったときに急性期病院で治療を受けたいかどうか、の2点が重視されることが多いです。

例えば悪性疾患では、がんの進行や体力の低下によって、化学療法や放射線治療などのがんに対する治療がこれ以上できない(患者が望まない)という場合。そのような状態でさらに具合が悪くなったとき、ERに行って急性期病院で治療を受けるよりも(そもそも何をやっても状態を劇的に改善させることはできないので)、穏やかに、苦しまないことを最も大切なゴールとして残された時間を過ごしたいと考える場合は、ホスピスケアの適用になります。

ナースがチームで対応

ホスピスケアではナースが中心になったチームが組まれ、ナースが患者の自宅へ訪問診療をして、痛みや呼吸苦の症状をモニターし、必要であれば薬剤の調節をします。訪問の頻度は患者の状況によりますが、症状が安定していても週に2回、そうでなければもっと頻回になります。ナース以外にも医師、ソーシャルワーカーやチャプレンも訪問します。

もう一つの利点は、夜間に具合が悪くて不安になった場合などにホスピスチームに24時間アクセスできることです。チームは電話で薬剤の調整を指示したり、担当のナースを翌日に派遣したりなど対応します。

ホスピスケアは公的保険であるメディケアパートAをはじめ、ほとんどの医療保険でカバーされています。上記の訪問や苦痛を取るための薬剤、ホスピタルベッド、酸素などの医療器具もカバーされます。

ただし、ホスピスケアでカバーされていないものもあるので注意が必要です。一番大きいのは身の回りの助けをしてくれるホームアテンダントです。カバーされるのは最大で週20時間までとされていますので、自宅でケアを受けるためには、まだ自分の身の回りのことが自立してできるくらいの元気があるのが理想的です。それができない場合、家族が身の回りの世話をすることになりますが、不可能な場合は何らかの施設でホスピスケアを受けることになります。この辺りの詳細はそれぞれのケースによりますので、担当の医師やソーシャルワーカーに尋ねるのが良いでしょう。

 

 

 

 

今週の執筆者

中川 俊一
内科医、老年医学医、ホスピスおよび緩和医療医

北海道大学医学部卒業後、クリーブランドクリニックの肝移植フェロー、同クリニック内科レジデント、マウントサイナイ老年内科フェローなどを経て、現在はコロンビア大学医学部で緩和医療科入院部門のディレクターを務める。
cancer.columbia.edu/profile/shunichi-nakagawa-md

 

●ウェビナー●

アドバンス・ケア・プランニング
〜TALKING ABOUT DEATH WON’T KILL YOU〜

4月23日(土)午後7時〜8時30分開催!

ニューヨーク日系人会(JAA)第14回サクラヘルスフェアで開催するウェビナーに、今回のコラムを執筆した中川俊一医師が登壇。家族や愛する人、医療ケアチームと共に将来の医療やケアについて話し合い、本人の意思決定を支援するプロセスを指す「アドバンス・ケア・プランニング」について講演する。参加費無料。

第14回サクラ・ヘルスフェア

【企画】
ニューヨーク日系人会(JAA)、Japanese SHARE

時間や参加方法などの詳細は、下記のURLかQRコードをチェックしよう。

URL: https://sharejp.org/schedule/2022/4/23

 

 

 

 

Japanese SHAREは、アメリカに住む、乳がん、卵巣がん、子宮体がん、子宮頸がんの患者さんを日本語でサポートする非営利団体です。

TEL:347-220-1110(日本語ヘルプライン)
Email: admin@sharejp.org
Web: sharejp.org

 

               

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