心と体のメンテナンス

アメリカでの出産と母乳育児(後編)

母乳育児と妊娠中のイメトレ
困ったら迷わず専門家に相談

 

Q. 母乳のみ=母乳育児ですか?

A.

そうではありません。フォーミュラ中心で育てても、一回でも母乳を与えたらそれは立派な母乳育児です。ただ、母乳を飲んだ量が多いほど、赤ちゃんはより多く母乳の恩恵を受けられます。

母乳は、生後6カ月までの成長に必要な全ての栄養を含む、お母さんが赤ちゃんだけのために作る「オーダーメードの完全食」です。成長を促すホルモン、病気から守る免疫成分など、人工栄養(フォーミュラ)には含まれない栄養素が、母乳には多く含まれています。世界保健機関(WHO)とユニセフは「生後6カ月間は母乳だけで育て、補完食を開始後も、2歳かそれ以上まで母乳育児を続けましょう」と推奨しています。

赤ちゃんが生まれてから、母乳について一から学ぶことは大変です。妊娠中から授乳の仕方などを画像や映像などからイメージトレーニングをしたり、人形を使って授乳の姿勢を練習したりと、準備することがとても大事です。母乳育児は、赤ちゃんが生まれた瞬間から始まります。

 

Q. 母乳が作られる仕組みは?

A.

赤ちゃんは、おっぱいを吸うことでお母さんの脳に指示を出し、それによってオキシトシンとプロラクチンという母乳生産に関連したホルモン(今週の英単語参照)の分泌が調節され、その時々の赤ちゃんに必要な栄養と量が生産されます。まさに「オーダーメード」です。

例えば早産の場合は、未熟児向けの母乳が作られます。妊娠中に母乳を作る組織の乳腺が発達し、妊娠16週(妊娠5カ月)ごろには初乳が作られ始め、早産の場合の備えにもなります。妊娠が問題なく継続すれば、この時期から母乳を作っても母体を酷使するだけなので、胎盤からのホルモンによって母乳生産は抑えられています。

そして出産直後に、少量ですが、大事な初乳が出ます。最初のワクチンと言われるように、初乳には多くの免疫物質が含まれるほか、抗酸化作用のあるビタミンA・E(外界は胎盤の中よりも酸素濃度が高いので、酸化から新生児を守るための成分)も含みます。赤ちゃんの未熟な消化器官を助けるため、初乳のベタベタ成分が消化器官の表面をコーティングします。

最初の2、3日はあまり母乳が出ませんが、赤ちゃんは少量の初乳で、徐々に外界に慣れていきます。生産量が増えるのは3日目くらい。産後9日目ごろまでが母乳育児の一番の頑張り時で、 この時期に赤ちゃんにたくさん吸ってもらい、生産量を増やしておくと、その後の母乳育児が軌道に乗りやすくなります。

どうしても母乳が出ない、痛い、おっぱいが張るなど、問題に直面したら、一人で悩まず、ラクテーションコンサルタントに相談しましょう。すくすく会にも気軽にご相談ください。

 

Q. 他に、母乳育児のメリットは?

A.

赤ちゃんへのメリットは、免疫物質による病気予防のほかに、乳幼児突然死症候群が減る、成長後の喘息やアトピー性皮膚炎が減る、糖尿病や肥満などの生活習慣病を予防するなど。知能が高くなるとの報告もあれば、母乳の匂いが母親の食べるものの影響を受けるので、離乳食への移行がスムーズだとも言われます。

お母さんの健康面でのメリットは、出産後体重が元に戻りやすい、各種がんなどのリスクが減るなど。経済的なメリットも大きく、フォーミュラよりも年間約20万円の節約になると言われます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新場裕美さん〈NYすくすく会〉
Hiromi Shimba, IBCLC
_________________
2004年9月発足の育児支援NPO。
ニューヨーク近辺で妊娠・出産、育児をする日本人家族を対象に支援。
新場さんは国際認定ラクテーションコンサルタント、日本の看護師、助産師として、すくすく会では母乳育児の支援を中心に、ボランティアで活動に参加。
パンデミック以降は、オンライン・サポートミーティング「すくすくお茶会withじょさんし」を定期開催している。

 

 

NYすくすく会

info@sukusukukai.org
sukusukukai.org

 

 

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